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 コポコポコポ……  水の中で泡が弾けるような不思議な音が微かに聞こえた。その音が、僕の好奇心を刺激する。  父に連れられて来たお屋敷は、地位の高い人が住むような立派な屋敷だった。  真鍮のドアノッカーの付いた重厚な扉が開けられて中に招かれると、(ひら)けた空間の上部から光り輝くシャンデリアが仰々しく僕を見下ろした。床には赤い絨毯が敷き詰められており、階上へと繋がる階段がシャンデリアの奥に鎮座している。  屋敷の(あるじ)のデュークは、上等なスーツを着こなした白髪の高齢の紳士だった。主は父と軽く挨拶を交わし、僕の方へと視線をよこすと、目尻の皺を深くして目を細めた。  僕は最上の敬意を表す挨拶をした。そんな僕を品定めするように見るデュークの視線に、居心地の悪さを感じ、小さくため息をついた。デュークはそんな僕の態度を意に介さない様子で、父との談笑を再開させた。  父がデュークと用事を済ませている間、僕は自らすすんで屋敷の奥へと迷い込んだ。不思議な音のする方へ導かれるように、好奇心に任せて、臆することなく進んでいく。  僕は見つからないよう細心の注意を払った。だが、僕にはいざという時のための秘策がある。だから動じることはないのだけれど、用心するに越したことはない。  辺りは不気味なほど静かだった。  どこの部屋の扉も固く閉ざされており、どこを歩いても全く人の気配がしない。  こんなに広い屋敷なのに、デュークは一人で住んでいるのか?    そんなことを思いながらしばらく散策すると、同じような扉が並ぶ廊下の隅に、地下へと続く階段を見つけた。それは隠し扉の奥にあったのだが、その扉は難なく開けることができた。  階下の先は仄暗く不気味な気配を漂わせており、少しかび臭いような地下特有の湿った空気を感じる。  恐る恐る階段を降りると、音は次第に大きくなった。  
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