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 彼女の名前はミラ。  数週間前、闇のオークションで落札されて連れてこられたらしい。  元々はここよりもずっと西の海に住んでいて、狩りで浅瀬まで出て来たところを生け捕りにされたのだと話してくれた。    「僕はその……人魚について何も知らない。君は観賞用として売られたの?」  ミラは悲しげな顔で首を横に振った。美しい髪がゆっくりとその動きを流れるように追った。  『私の血は高値で売買されるの。鱗も……それから涙も』  僕の質問に躊躇う様子もなく、ミラは答えた。それから、手首の傷痕を見せてくれた。  「惨い……」  僕は、デュークのあの品定めするようないやらしい目つきを思い出した。  こんなに可憐で美しい人魚をこんなところに監禁して、自分の私利私欲のために痛めつけて、金儲けの材料にするなんて……と怒りがわく。  「どうにかして、僕がここから逃がしてあげるよ」  僕がそう言うと、ミラは『あなたみたいな人間の子供に、そんなことできっこないわ』と眉を下げてゴボゴボっと大きな泡を吐いた。  そうか、僕は今……。  僕はそんなミラに向かってニッコリ微笑む。    「僕はただの人間じゃないんだよ」  ミラは目を見開き、驚きの表情を浮かべたかと思うと、すぐに表情を曇らせた。身をすくめているミラの視線は僕の背後に向けられて、その美しい碧色の瞳が恐怖で揺れた。  「ウィル君、探したよ」  急に背後から声をかけられて、僕はビクンと肩が上がった。  いつ来たのだろう。全く気配を感じなかった。  今の話、聞かれたか?  僕はとぼけた顔を作ってゆっくり振り返る。  「すみません、このお屋敷広くって」  そう言うと、デュークは冷めた視線を僕によこしてニヒルに笑った。  
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