15人が本棚に入れています
本棚に追加
私はフードをあげてウィルを見た。
私を抱えていたウィルは、人間ではない毛むくじゃらの獣に化けていた。鼻は前に突き出ていて、口は大きく、その隙間からは鋭い牙を覗かせていた。
容赦なく一斉に襲いかかってくるヴァンパイアたち。ウィルは私を抱え、守りながら抗戦する。
「まさか……シェイプシフター⁉︎ その娘が恐れていないということは……君はウィルなのか?」と、デュークは目を見開き驚いている。そしてすぐに続けた。
「ふん、まぁいい。ウィル君、その人魚をこちらによこしたまえ」
それからデュークは瞬時に目の前に現れ、私の腕を掴むと、物凄い力でウィルの体を突き飛ばした。
「グハッ」
獣の姿のウィルの体は、他のヴァンパイアたちをなぎ倒しながら飛ばされた。
そして壁にぶち当たると、みるみるうちに元の人の姿に戻った。
『ウィル!』
悲痛の声と共にパラパラパラ……と、涙が床に転がった。
「おぉ!白か。悪くないな」と、デュークはそれを拾い、床に座り込む私とウィルを交互に見てニヤリと笑った。そして次の瞬間、デュークは「見ていろ」と言って私を軽く突き飛ばし、瞬時にウィルの元へ移動すると、鋭い爪をウィルの腹に突き立てた。
『ダメ! やめて……』
また、涙がこぼれた。
「ハッハッハッハッ! 君をミラのところへ通わせたのは正解だったな。思惑通りだよ。情が生まれて、こんなにも簡単に白が手に入るのだからな」
デュークの高笑いが響き渡る。
「ウグッ……」
苦痛の表情を浮かべているウィルの口から、真っ赤な血が流れた。
『ウィル!』
私は這ってウィルの元へと行こうと藻掻くが、思うように動けない。
それでも私は、必死に腕で床を押し付けて体を動かそうとした。
その時、「ワオーーーーン」と、 扉の外から先程のウィルと似た獣の遠吠えが聞こえた。それから間もなくして、ハッハッハッと息を切らす音が近づく。
何かが来る⁉
そう思ったのとほぼ同時。四足歩行の大きな獣が二匹、グルルルルと喉を鳴らしながら扉の向こうから飛び込んできた。そして、迷うことなくデュークに襲いかかった。
デュークは「クソ、今日は満月か……人狼め!」と言って即座に応戦した。
「父さん……母さん……」
苦痛に歪んでいたウィルの顔に、安堵の色が浮かんだ。
よかった! 仲間なんだ……。
この絶体絶命の状況に光が見えたと、安堵したのも束の間。なぎ倒されていたヴァンパイアたちが、勢いよく私の方へと襲いかかり、牙を剥いた。
──嫌!
最初のコメントを投稿しよう!