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 私は"もうダメだ"と、咄嗟に目を閉じた。だが、いつまで経っても痛みを感じない。  恐る恐る目を開けてみると、目の前にはウィルがいた。そして「怪我は無い?」と、切なげに微笑んでいる。よく見ると、襲いかかってきたヴァンパイアたちの牙が、ウィルの肩や腕にくい込んでいた。  『ウィル!』  人狼と呼ばれた獣の一匹がこちらの異変に気づき、ウィルに噛み付いているヴァンパイアたちを引き剥がした。  『あぁ、ウィル……私のためにゴメンナサイ』  私はウィルの胸に顔を寄せた。  「僕こそ……僕にもっと力があれば……」    ウィルはそう言って私の頭を優しく撫でた。それから「母さん……」と、人狼に話しかける。  「ミラを連れて逃げてくれ……あの場所にミラを連れて行ってくれ!」  そう言うと、今度は私の目を左右交互に見つめて「後から必ず行くから……一緒に約束の桜を見よう。一時の辛抱だ。ミラ、好きだよ……」と、私の額に唇を寄せた。    『嫌よ、ウィル……一緒に行きましょう……一緒がいい。一緒じゃなきゃ嫌よ!』  私がそう伝えるのと同時に、ウィルはまた私のフードを目深にかぶらせた。  そして、直ぐに私の体はふわりと宙に浮いた。母さんと呼ばれた人狼が、私を優しく咥えあげたのだ。  母さんは出口の扉に向かってものすごいスピードで走り出す。  『嫌よ、ウィルを置いていくなんて!』  私は慌ててフードをあげると、そこには既に先程までのウィルの姿はなかった。  激しく戦う人狼とデューク、そしてヴァンパイアたち、それから…… それからあれは……  私の姿……人魚がそこにいた。  遠ざかる視界の中で、ヴァンパイア達がその人魚に次々と襲いかかるのが見える。  ダメよ!やめて……やめてー!  私は『降ろして』と、じたばたと藻掻くが、母さんはどんどんスピードを上げて屋敷から遠ざかり、直ぐに建物すらも見えなくなった。  森の中。顔を上げると木々の上から、まんまるなお月様が私たちを優しく見下ろしていた。    「うあぁ~……あぅうああぁぁ……」    喉の奥から、声にならない声が漏れる。     ウィル、ウィル……死なないで! どうか、どうか……。
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