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2−12 女教師
その日を境に、ジェニファーとジェニーの仲はより一層深まった。
2人は四六時中、一緒に過ごすようになり勉強もするようになっていた――
――午前10時
ジェニファーとジェニーは本とノートを広げて、机に向かっていた。
「はい、そうです。ジェニー様、良く出来ましたね」
メガネをかけた女性がジェニーの背後に立ち、ノートを見つめた。
「先生、ありがとうございます」
ジェニーの言葉に女性教師は笑みを浮かべると、次にジェニファーに声をかけた。
「ジェニファーさんは出来ましたか?」
「あ、あの……まだ……です」
赤くなりながら、ジェニファーは返事をする。
「まぁ、まだ出来ないのですか? その問題は小学生の低学年向けの簡単な掛け算ですよ? ジェニファーさんはジェニー様は同学年ですよね?」
「はい……」
ジェニファーは、ようやく掛け算を覚えたばかりだった。それなのに、いきなり2桁の掛け算など出来るはずもない。
「全く、不出来な生徒ですね。それに比べてジェニー様はとても優秀なお方です。教師として鼻が高いですわ」
そして、ジェニファーに軽蔑の目を向ける。
この女教師は、名門フォルクマン伯爵家に媚を売っていたのだ。もちろんジェニーは元々頭が良くて利発な少女だった。
だが、あえて勉強が遅れているジェニファーを引き合いに出してジェニーを褒めていたのである。
少しでも伯爵家に気に入られる為に、まだ早すぎる問題をジェニファーに充てがってジェニーと比較しようとしていた。
(きっと、これでジェニー様もますます自信を持って伯爵様に私のことを話してくれるはずだわ)
しかし……。
「先生、ジェニファーを悪く言うのはやめていただけますか?」
キッとジェニーは女教師を睨みつけた。
「え……?」
予想もしない態度に女教師は戸惑った。
「ジェニファーは学校へ通わせて貰えていなかったのです。それでも読み書きは出来るし、足し算引き算だって出来ていました。ここへ来て始めて掛け算を覚えたばかりなのに、いきなりそんな難しい問題を出すなんて酷いです。ジェニファーは勉強をとても頑張っています!」
「ジェニー……」
ジェニファーはジェニーをじっと見つめた。
(ジェニーが私のことを、そんな風に思っていてくれていたなんて……)
一方、焦っていたのは教師の方だ。
ジェニーを褒めれば、喜ばれると思っていたのに裏目に出てしまったのだ。
(まさか身分の違うジェニーを、そこまで大切に思っていたなんて……ど、どうしよう。このままでは私の立場が……!)
「申し訳ございません! ジェニー様。つい、口が過ぎてしまいました! お許しください!」
女教師は必死でジェニーに頭を下げた。
「謝るのなら私にではなく、ジェニファーに謝ってください」
「え……?」
その言葉に教師は目を丸くする。
(この子爵家出身の私が!? 学も無い、貧しい娘に謝れというの!?)
貴族社会で育ってきた彼女にとって、自分より目下の相手に謝るなど考えられないことだった。高位貴族ばかり相手に家庭教師をしてきたプライドが許せなかった。
「で、ですが……」
「謝れないのであれば、お父様にお話して家庭教師を変えてもらいます」
ジェニーの言葉に血の気が引く。ここをクビにされれば、自分の評判に傷がついてしまう。
「ジェニー様! 申し訳ございませんでした! どうかお許しください!」
女教師は必死でジェニファーに謝罪してきた。
「い、いえ。私は大丈夫です……」
うろたえながらジェニーに視線を移すと……満足そうに少女は笑っていた――
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