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3−2 出会い
なだらかな草原の丘を下りながら、ジェニファーは周囲の美しい風景に目を奪われていた。
真っ青な澄み切った青空によく映える緑の平原。遠くには美しい山脈がつらなっている。まるで美しい風景画を見ているようだ。
「本当に素敵な場所ね。外に出ることが出来ないジェニーは可愛そうだわ」
心優しいジェニファーは病弱なジェニーが哀れでならなかった。だから今の自分に出来ることは、精一杯ジェニーを演じることなのだと使命感に燃えていた。
やがて丘を降りきると、小さな町へ続く道に出てきた。
綺麗な石畳の上を歩きながらジェニファーは赤い屋根の教会目指して歩き続けた。
町の人々は高級そうな服を着て1人で歩くジェニファーを好奇心の目でチラチラ見て囁いている。
「誰も連れないで歩くなんて、何処のお嬢さんかしら」
「もしかして貴族かもしれないな」
「きっと育ちが良いお金持ちに違いない」
けれど、元々貧しい育ちのジェニファーは自分が注目されていることに少しも気づいていなかった。
そのまま教会目指して歩いていると、路地裏から子供の騒ぎ声が聞こえてきた。
「返してよ!! 僕のネックレス!!」
「え?」
ジェニファーはその声に驚いて、足を止めた。
「何だよ! 男のくせに、ネックレスなんか持ちやがって!」
「本当はお前、女なんじゃないか?」
「女じゃない! 僕は男だ!」
恐る恐るジェニファーは路地裏を覗き込むと、どうやら1人の少年が複数の少年たちから虐めを受けている様だった。
「返してってば!!」
身なりの良い少年は必死でネックレスを取り返そうとしているが、少年たちはまるでボール投げをするかのように次から次へとネックレスを投げ合って誂っている。
「へへーん! 取れるものなら取ってみやがれ!」
「金持ちなんだからネックレスぐらいよこせよ!」
「ほらほら、こっちだぞ〜」
「お願い! 返してよ! それは僕の宝物なんだ!」
気の毒な少年は次々に別の少年の手に渡っていくネックレスを必死で取り返そうとしていた。
「なんて酷いことをしているの……」
ジェニファーは、もう我慢できなかった。そこで大きく息を吸い込むと……。
「おまわりさーん!! こっちです!! 子供の泥棒がいまーすっ!!」
その言葉に少年たちはギョッとした。
「お、おい……おまわりさんだって……」
「俺達、泥棒になってしまうのか?」
「こ、こんなもの返してやるよ!」
少年たちはネックレスを投げ捨てると、まるで蜘蛛の子を散らすようにバタバタと走り去っていった。
1人残された少年は地面に落ちたネックレスを拾い上げた。その様子を見届けていたジェニファーは思い切って声をかけた。
「あの……大丈夫だった?」
その声に少年は振り向いた。シルバーブロンドの髪に、琥珀色の瞳の少年はとても可愛らしい容姿をしている。
身なりも良く、お金持ちの子供に違いないとジェニファーは思った。
「今叫んだのは……君だったの?」
「え、ええ。大切なネックレスを取り上げられたのでしょう? 見ていられなくて……」
「男のくせにネックレスを持っているなんて変に思うよね?」
「そんなことないわ。だって大切な物なのでしょう?」
すると少年は俯き、ポツリと言った。
「これ……僕の亡くなったお母様の形見なんだ」
「そうだったの? 私もお母様を亡くしているの」
実際、ジェニファーは両親を亡くしているが今はジェニーになりきっている。それにジェニーも母親を亡くしているのだから。
「え? 君もなの?」
「そうよ。だから形見の品を大切に思う気持ち、よく分かるわ」
そしてジェニファーは少年に笑顔を向けた――
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