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3−4 教会
教会に到着すると、早速ジェニファーは扉の前に垂らされた呼鈴を引っ張った。
「「……」」
少しの間2人で待っていると、扉がゆっくり開いてシスターが現れた。
「あら? どうかしましたか? 今日の礼拝はもう終わっていますよ?」
子どもたちだけで教会へ来たのが不思議だったので、まだ年若いシスターは怪訝そうに首を傾げる。
「あの……私、ジェニー・フォルクマンです」
どうかバレませんようにと、ドキドキしながらジェニファーは名乗った。
「え? ジェニー・フォルクマン……? あ! 以前こちらに来て下さったフォルクマン伯爵様の御令嬢ですね?」
「はい、そうです。ジェニーです。今日はこちらの教会に献金と、友だちを連れて遊びに来ました」
「まぁ、わざわざお友達と一緒に献金の為に足を運んでくださったのですか? ありがとうございます」
シスターは2人に挨拶をする。その様子にジェニファーは安堵した。
(良かった……シスターも私のことをジェニーだと思っているみたい。これなら教会の子どもたちにもバレずにすむかも)
「初めまして、ニコラス・テイラーです」
ニコラスは少し、ためらいがちに自己紹介した。
「はじめまして、ニコラスさん。それではどうぞ、お入り下さい」
シスターは笑顔で、教会の扉を大きく開けると2人を招き入れた。
「ちょうど、子どもたちは食堂に集まって、オヤツを食べるところだったのですよ?」
廊下を歩きながら説明するシスター。
「あの、その前にニコラスの傷の手当をさせてもらってもいいですか?」
「え? 傷の手当?」
シスターは立ち止まると振り向いた。
「何処を怪我しているのですか?」
「あの……左の手の平です……」
ニコラスがシスターに手を差し出した。
「まぁ、これは痛そうね。では、手当をしてあげましょう」
そこへジェニファーが声をかけた。
「シスター、ニコラスの怪我は私が手当をするので救急箱を貸してもらえますか?」
「え? ジェニーさんがですか?」
「はい、シスターは子どもたちのお世話がありますよね? だから私がニコラスの手当をします。傷の手当は慣れているので」
家事仕事で生傷が耐えなかったジェニファーは当然傷の手当も出来る。
「そうですか? では先に救急箱のある部屋に行きましょう」
「「はい」」
シスターの言葉にジェニファーとニコラスは返事をした――
****
「はい、どうぞこの救急箱を使って下さい」
小さな部屋に案内されるとシスターは救急箱を持ってきてくれたので、ジェニファーとニコラスはお礼を述べた。
「どうもありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いいえ。 それでは私は食堂に行ってきますね。オヤツの用意が終わったら、また戻ってきます」
「あ、待って下さい!」
シスターが部屋を出ようとしたところを、ジェニファーが呼び止めた。
「どうかしましたか?」
「はい、こちらのクッキーを皆にあげて下さい」
ジェニーから預かってきたクッキーの缶が入った紙袋を差し出した。
「まぁ……献金だけでなくお菓子まで持ってきてくれたのですか? きっと子どもたち喜びます。ありがとうございます」
シスターは笑顔ですぐにクッキーを受け取った。この教会はあまり裕福ではなく、貴族やお金持ちの善意で成り立っているので、差し入れはとてもありがたいものだったのだ。
「喜んでもらえて嬉しいです。それでは救急箱を借りますね」
「ええ、どうぞ。では早速子どもたちに届けてきますね」
そして、シスターは足早に部屋を出ていった。
「さ、ニコラス。手を出して?」
二人きりになると早速ジェニファーは救急箱を開けて、ニコラスに声をかけた。
「う、うん」
ニコラスは怪我をした左手を差し出すと、ジェニファーは消毒薬の蓋を開けて手当を始めた。
「! 痛っ!」
消毒薬が傷にかけられ、ニコラスは眉を顰める。
「ごめんね、痛かった?」
心配そうに声をかけるジェニファー。
「だ、大丈夫だよ。……それより傷の手当が出来るなんて、すごいね」
「ええ。怪我には慣れているの」
「え? 慣れている?」
「あ……そ、そう。良く使用人達が怪我をしているの。だから私が治療してるのよ」
ジェニファーはとっさにごまかした。
(いけないわ、今の私はジェニーなんだから気をつけないと)
「ふ〜ん……そうだったのか。ジェニーはとても優しいんだね。僕のことも助けてくれたし、教会に寄付もする。それどころか使用人の傷の手当までしてあげるんだから」
「そ、そんなことないわよ。……はい、出来た」
ジェニファーはニコラスの手に包帯を巻き終えた。
「ありがとう」
お礼を述べたニコラスの頬は……少しだけ、赤く染まっていた――
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