1−3 薄幸な少女

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1−3 薄幸な少女

「ブルックさん。お手紙が届いていますよ」 ジェニファーが庭掃除をしていると、郵便配達員が手紙を持って現れた。 「どうもありがとうございます」 受け取ると、配達員は「それでは」と言って笑顔で帰っていった。 「誰からかしら……?」 受け取った手紙は3通。 いつも宛先は叔父の名前ばかりで手紙が届く度に叔父はイライラし、「くそっ! また督促状か」と呟いていた。 「督促状」と言うものが、何か分からないジェニファー。 字の読み書きは出来るものの、叔父家族は少女に満足な教育の場を与えてくれなかったので難しい単語は理解できなかったのだ。 「また叔父様の機嫌が悪くなりそうね……」 ため息をついて手紙を改めると、1通はジェニファー宛になっている。 「え? 私宛の手紙……?」 今まで自分に手紙が一度も届いたことが無かったジェニファーは首を傾げた。 「一体誰からなのかしら?」 手紙を返してみると、差出人はセオドア・フォルクマンとなっていた。 「セオドア……フォルクマン……?」 ジェニファーは記憶を手繰ってみた。何処かで聞き覚えのある名前のような気がする。 「でも、手紙を読めば分かるわよね」 手紙を開封しようとした矢先。 「ジェニファー! こんなところで何をしているの? さっきから呼んでいたのが分からないの?」 背後で叔母のヒステリックな声が聞こえた。 「あ……ご、ごめんなさい。外で庭掃除をしていたもので……」 本能的に叔母の目から手紙を隠そうとエプロンのポケットに入れたものの、見つかってしまった。 「ちょっと、今ポケットに何を隠したの? もしかしてお金でも盗んだのじゃないでしょうね!?」 「そんな! お金なんて盗んだことありません!」 「だったら、今隠したものを見せてみなさいよ」 叔母は右手を広げて、ジェニファーの前に突き出した。 「はい……」 こうなると、もうジェニファーには逆らえない。震えながら、ポケットにしまった手紙を差し出す。 「何? 手紙? 何で隠すのよ」 サッと叔母は手紙を奪ってしまった。 「叔母様! その手紙を返して下さい! それは私宛なんです!」 「はぁ? あんた宛に手紙? そんな物来るはず……あら? 本当ね」 ジェニファー宛に届いた手紙ということに気付くと、叔母は勝手に開封してしまった。 「やめてください! 私の手紙なんです! 返して下さい!」 必死に訴えるジェニファーに叔母は怒鳴りつけた。 「うるさいわね! こっちはあんたの保護者なのよ! 保護者は何でも管理する権利があるのよ! ふ〜ん……どれどれ……」 叔母は手紙を読み始め……驚愕の表情を浮かべて、身体を震わせた。 「な、何ですって……」 手紙を取り上げられたジェニファーはハラハラしながらその様子を見守るしかなかった。 「ジェニファー!! あんた、フォルクマン伯爵家と親戚だったの!? 何でそんな重要なことを黙っているのよ!!」 ピシャッ!! 叔母の怒鳴り声と共に、平手打ちが飛んできた。 「キャッ!」 叩かれた勢いで、そのままジェニファーは地面に倒れ込む。 「こうしちゃいられないわ! 夫が帰ってきたら報告しなくちゃ!」 叔母はジェニファーの手紙を握りしめると、家の中に入っていく。 「叔母様! その手紙は私のです! お願い! 返して下さい!」 必死になって訴えるも、叔母は屋敷の中に入ると扉を閉めてしまった。 ガチャッ! 内鍵が掛けられる気配に気づき、ジェニファーは慌てて扉に駆け寄った。 「叔母様!? 開けて下さい!!」 『おだまり!! 薪割りを終わらせるまでは家の中には入れないからね! さっさとおやり!! 怠けたりしたら今夜は野宿してもらうわよ!』 「そ、そんな……」 まだ10歳のジェニファーにとって、薪割りは重労働だった。少女の両手のひらには豆が出来て、何箇所か潰れている。 「また薪割りなんて……」 ジェニファーの目に涙が浮かぶ。 けれど薪割りをしなければ、家に入れてもらえないのだ。煮炊きも出来ないし、暖を取ることも出来ない。 「やるしかないのね……」 ジェニファーはエプロンを切り裂くと、手の平に巻き付けた。 そして薪小屋へ向かうと痛みを堪えて薪割りを始めた。 カーンッ! カーンッ! 痛みと、悲しみの涙を流しながら――
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