1−5 素直な子供たち

1/1
前へ
/109ページ
次へ

1−5 素直な子供たち

「わぁ〜美味しそうな匂い!」 「ケイトおばさんだ!」 ダンとサーシャは意地悪な母親よりも、優しいケイトが好きだった。そのことが、余計にアンを苛立たせていたのだ。 「こんにちは、ダン、サーシャ。皆にシチューを作ってきたわよ」 ケイトは途端に笑顔になる。 「ありがとう、 ケイトおばさん」 「私、シチュー大好き!」 「こ、こら! ダン! サーシャ!! あなたたち、何言ってるの!? こんな物食べちゃだめよ! 今から食事はジェニファーに用意させるのだから!」 「イヤ! だってお腹ペコペコ! もう待てないもの!」 アンが怒りで顔を真っ赤にさせると、サーシャは激しく首を振る。 「あ! お姉ちゃん! その手、どうしたんだよ!」 そこへダンがジェニファーの手の平に出来た傷に気づいた。 「可哀想に、ジェニファーはあなたたちのお母さんから1人で薪割りをするように命じられて、それで豆が潰れて怪我をしてしまったんだよ」 ケイトが嫌味たっぷりに教えた。 「え? そうだったの?」 「薪割りは大人の仕事だって言ったじゃないか!」 サーシャは首を傾げ、ダンが母親のアンを睨みつける。 「そ、そうよ! ジェニファーは、あんたたちより大人だから薪割りをさせたのよ!」 「ジェニファーはまだ10歳の子供ですよ!」 ケイトが言い返した。 「そうだよ! だったら俺だって薪割り位手伝うさ!」 ダンの言葉にアンは青ざめる。 「何言ってるの!? 駄目よ! 薪割りで怪我でもしたらどうするの?」 「だったら、お姉ちゃんは怪我してもいいっていうの?」 今度はサーシャが母親に問いかけた。 「うっ……!」 (な、何なの? この女といい、ダンにサーシャまで……ジェニファーに丸め込まれたっていうの!?) アンは悔し紛れにジェニファーを睨みつけた。 「あ……」 (どうしよう、叔母様を怒らせてしまったわ……また叩かれてしまうかも……) ジェニファーの顔に怯えが走り、そのことに気づいたケイトがアンの前に立ちふさがった。 「さぁ、どうします? 子供たちは皆シチューとパンを欲しがっています。夫人は欲しくないのでしょう? ご安心下さい、無理に夫人に食べてもらおうとは思っていませんから。さ、それじゃジェニファー、私の家に来なさい」 ケイトがジェニファーに声をかけた。 「え? ケイトおばさん?」 「ちょっと! ジェニファーをどうするつもりなの!?」 アンがケイトの肩を掴んだ。 「ジェニファーの手当をするに決まってるじゃありませんか。この家ではとても手当してもらえなさそうですからね」 「くっ……か、勝手にしなさい!!」 怒りで肩を震わせたアンは厨房から出て行った。 「お姉ちゃん。ごめん……薪割りなら今度から俺も手伝うよ」 「私も何か手伝う」 「ダン……サーシャ……ありがとう」 ジェニファーが2人に礼を述べると、ケイトが笑顔になった。 「2人はいい子ね。薪割りは、もっと大きくなってからでいいわよ。薪くらい私達が用意してあげるから。他の仕事を手伝っておあげ」 「「うん!!」」 笑顔で頷くダンとサーシャ。 「それじゃ、さっそくだけど2人でシチューをよそって食べれるかしら?」 「勿論! それくらい出来るさ!」 「私も出来る!」 「じゃ、2人で仲良く食べなさい。手当が終わったら、ジェニファーを返してあげるから」 ケイトは笑顔でダンとサーシャの頭をなでた。 「ごめんね、ダン。サーシャ。ちょっと行ってくるわね」 2人に申し訳なく思い、ジェニファーは謝った。 「うん、大丈夫だよ」 「行ってらっしゃい」 こうしてジェニファーは2人に見送られ、ケイトと彼女の家に向かった――
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

318人が本棚に入れています
本棚に追加