君を思う雨上がり

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「参ったな」 突然降り出した激しい夕立ちに僕たちは慌てて近くの軒下に駆け込んだ。 空を見上げて様子を伺うと、雨は激しく地面を叩きつけるように降っている。 「しばらく止みそうにないね」 そうだね、と隣に立つ真琴に視線を移した。 空を見上げながら雨粒で濡れた髪を束ねている様子が妙に色っぽくてドキドキしてしまう。 そんな真琴の仕草に見惚れていた僕の視線に気付いたのか、真琴は少し頬を赤らめて俯いた。 その様子がとても可愛くて思わず抱き締めたい衝動に駆られたけど、なんとか堪えて、話題を変えることに集中した。 僕は先日、父さんの仕事の都合で引っ越してしまって真琴とは学校が離れてしまったのだ。 だから、雨宿りしている間でも一緒にいられる時間を大切にしたい。 離れても、ずっと真琴のことを想ってたから。 「なぁ、真琴……あのさ……」 「ん? どうしたの?」 言いかけた言葉を遮って真琴がこちらに向かって微笑みかけている。 僕はなんだか急に少し気恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。 「いや、やっぱりなんでもないよ」 「ふーん、そっか」 そんな他愛のない会話をしているうちに少しずつ雨足も弱まってきた。 もう少しで完全に晴れそうな気配に真琴がハッとした表情をして空を見上げる。 僕もまた釣られるようにして空を見上げた。 いつの間にか厚い雲に覆われていた空の隙間からは幾筋もの光が射していた。 それはまるで天上から地上に降り注ぐ祝福のように思えた。 「あれはね、天使の梯子って言うんだよ!見たら幸運が訪れるんだって!」 「へぇ、じゃあ今日はいい事あるかもな」 「もう……あったよ?」 その言葉の意味がよくわからなくて首を傾げていると、真琴は満面の笑みを浮かべて僕の手を取って走り出す。 まだ出来たばかりの水溜まりが足元でパシャリと跳ねる音が響く中、真琴が振り向いた。 「だって、今こうして翔くんと一緒にいられてるもん!ずっと一緒にいようね!」 真琴が眩しいくらいの笑顔を見せて話す声が、どこか遠くの方で聞こえた気がした。 ふと目を開けると目の前には見慣れた天井が広がっている。 寝てたのか……。 曖昧な記憶を辿るようにゆっくりとベッドから起き上り、窓の外を目を向ける。 さっきまで降っていたはずの雨はすっかり上がっていて、カーテンの隙間から覗く空はあの日と同じように雲の切れ目から差し込む光の柱が見えた。 ━━ずっと一緒にいようね。 だけど、僕の隣に真琴はいない。 夢を見たせいだろうか、なんとも言えない寂しさを感じて胸の奥が苦しくなった。 物理的な距離は人の心さえも簡単に遠く引き離してしまう。 それが現実なんだと思い知らされた。 結局、僕はまだあの時と同じ気持ちのままで、雨上がりの空を見ると思い出してしまう。 2人で過ごした日々を。笑いあった声を。 僕はまだ真琴を諦めきれないままだから……。
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