ぼくの傘

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コレちょお店で預かっといてくれるか? 一目惚れした傘なんでな。無くしたり出来ん。 そーゆーんに出会えた時は。 絶対手ぇ離したらアカンのや」 あの小柄な男の手は。 細いけれど、ピアニストらしい長い指で。 それを目一杯広げて。自分の手を包んだ。 その感触を思い出すと、自然に笑みが浮かぶ。 雨が止んだばかりで。 走り出す足元では、水が跳ね上がり。 プレスの効いたスラックスは濡れるけれど。 『竜さん』は気にせず走る。 きっと、あの男が自分の特別な傘になって。 自分も、あの男の特別な傘になれそうだと。 ワクワクするような期待を持ちながら。
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