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写真部
僕が高校生になると、僕をいじめてきた人はみんな別の高校へと行った。
さすがに三年間もいじめを耐え抜いたのだから、部活に入らずにゆったりとした高校生活を過ごそうかとも思った。
でも懲りずに、僕は写真部に入った。
「向井夏目です」
自己紹介をしたあと、自分でとった写真を十五人いる部活のメンバーで見せあったりしたのだが、やっぱりどこかピントのあってない僕の写真は間違いなく他の誰よりも下手だった。
でもそんな僕の隣に来てくれる人がいた。
それが同級生の倉橋太陽くんだった。
「夏目くんも紫陽花とったんだね、俺と一緒だ」
そう言って僕の写真を手に取り微笑んでくれた。
机の上に並ぶ部活のメンバーがそれぞれ好きなものをとった写真。
太陽くんの写真はピントのあった物語性を感じられるもので、僕が今までで見たことない綺麗な写真だった。
太陽くんの写真を見て僕は不思議と悔しい気持ちにはならなくて、純粋に「こうなりたい」と思った。
「写真の撮りかた、教えてくれない?」
と太陽くんに聞くと
「嫌だよ、そんな器ない」
と苦笑いされてあっさり断られた。でも
「先生みたいにならずにいられるなら、夏目くんと写真をとりたいかな」
と太陽くんは優しく言ってくれた。
「うん」
僕は微笑む。
それから僕は放課後も太陽くんと写真をとりに出かけた。
近くの公園や橋や川などに足を運び、写真をとっては見せあった。
「やっぱり太陽くんは写真が綺麗」
公園のベンチに座り写真を眺める。
太陽くんは雑草も綺麗に写真に納めるから、何だか同じ空間にいる自分の景色も日に日に輝きを増してく気がした。
「同じ景色をとってても夏目くんの写真見ると一人一人見ている景色は違うんだと思う。いいな夏目くんの写真、まっすぐな意志が感じられる」
僕と同じポーズをして太陽くんは微笑んだ
写真を撮るのは下手だしなんの取り柄もない僕だけど、太陽くんはいつも人を見下したり自慢したりしなくて、いつも僕に優しかった。
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