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「なんで今までで……教えてくれなかったの?」
病室で目を覚まし、太陽くんから寿命のことを聞いた僕は同様が隠せない。
太陽くんはそれ以上口を開かないまま、僕を見ていた。
太陽くんを見て思う。
太陽くんが、いなくなる。
分かっている。
今一番辛いのは僕じゃない。
五体満足で今までで大きな病気にかかったこともない僕には痛みもないはず。
だけど、どうしても、
どうしても泣けてきてしまって、
心が脆くて。
僕の心情とリンクして、雨が降ってきた。
「嫌だな、まだ死んでないって」
あははと笑う太陽くんのちゃかした言葉が僕には痛くて。
泣いてる僕とは違い、余命宣告されている太陽くんは動じてない。それがどうしてなのか、僕には納得できない。
「まだ、何も……」
太陽くんに、まだ何もお礼ができていない。
いじめられっこだった僕と、僕が大好きな写真に寄り添ってくれたこと。
ずっと一人ぼっちだった写真部に孤独ではないと僕の見たかった景色を一緒に教えてくれた人。
感謝していたのに何も返していない。
そう思っていた時だ。
「夏目くん、お願い聞いてくれない?」
と太陽くんが呟いて、僕は顔をあげた。
「……お願い?」
「多分ねこの雨が止んだら、僕は死ぬと思うんだ」
「……は?」
「俺の余命一ヶ月らしいけどもうもたないと思う。自分のことだから分かるよ、この雨が降る間が限界だ。だから雨が止んだら、僕の棺桶にいれてくれる? 夏目くんの写真を」
「何言ってるんだよ」
「僕が三つお題を言う。その場所で写真を撮ってきてほしい。最後に」
気づくと僕は、太陽くんの胸ぐらをつかんでいた。
「……いい加減にしろよ、お前は死なない」
「写真のお題は、公園、紫陽花、水溜まりだ。なるべく綺麗な写真を頼んだよ」
「それって六月にやったお題じゃん」
「そうだよ」
「楽しかった僕らの思い出を葬式の思い出にしろって?」
「そうは言ってない」
「言ってるだろ?」
「夏目くん、頼むよ」
「嫌だ、断る」
「頼むよ」
「撮ってほしいなら、これからも生きていくと保証しろ」
「それはもう無理なことだ、俺がどれだけ望んでも」
太陽くんの静かな目。
ひどく落ち着きを払っているから、悲しみをごまかす僕も自分に嘘がつけなくなりそうで思わず胸ぐらをつかんだ手が緩む。
口を一文字に結んでも
どうしようもない悔しさと涙が溢れ出す。
「なあ夏目くん。嘘でもいいからうんって言ってよ」
「嫌だ」
「夏目くん」
「何で僕なの? そんなに言うならさやか先輩に撮ってもらったら? さやか先輩の写真が好きなんだろ?」
小さくそう言うと、太陽くんはまっすぐな瞳をこちらに向ける。
「夏目くんの写真がいいんだ」
僕は目をそらした。
「嫌だ、断る」
「……そっか」
ちらりと視線を戻す。
寂しそうな悲しそうな顔をした太陽くんを見てしまったから早くその場を離れたくてそのまま病室を離れて家に帰った次の日の朝、雨が上がり、太陽くんはこの世を去った。
余命が宣告された人の最後ではなかったらしい。
太陽くんは眠るように息をひきとり、不思議と最後まで何というか普通のままだったらしい。
「うんって言えばよかった」
僕の後悔は全身を襲った。
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