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「太陽くんの葬式は今日の夜です」
雨が上がった朝、
そう学校で発表があった。
もう泣くしかできなかった。
だから授業どころではなくて、自分の席に座り、ぼんやりしていた。
太陽くんのいなくなったクラス内もどこか静まり返っていた。
僕は悲しみにくれて
時間だけが過ぎ去って
泣きつかれた放課後すぐ屋上に行き
三角座りして晴れてきた空を見上げた。
ぼんやりして、過る。
『雨が止んだら、僕の棺桶にいれてくれる? 夏目くんの写真を』
果たさなきゃならない、その約束を。
そう決めるには時間がかかった。
写真を撮りにいこう。
時間がない。
やらなかったら、きっと後悔する。
僕は立ち上がる。
何とか太陽くんの葬式に間に合うように綺麗な写真を撮りたい。
写真を撮るには協力者が必要だと思った。
だから僕は写真部に行った。
「さやか先輩」
さやか先輩は窓の外の景色をとっていた姿勢から振り返り、静かに僕を見た。
「夏目くん」
「僕に写真の撮りかた、教えてもらえませんか?」
「え?」
さやか先輩は目を丸めた。そして少し目をそらして口を開く。
「どうして?」
「太陽くんに写真を教えたのはさやか先輩だと聞きました」
「私……」
「太陽くんに頼まれたんです。写真を撮って棺桶にいれてほしいって。僕は写真が下手だから太陽くんが憧れていたさやか先輩に習って写真を撮ってあげたい」
さやか先輩は静かに僕を見た。
「太陽くんはさ、前にコンクールで賞をとった私の写真を気に入ってくれた。それがたまたま賞をとった。でもそれだけだよ。私に取り柄はなくて、太陽くんが思っているような人じゃないの」
「部活のお題三ヶ月連続一位をとってるじゃないですか」
「あれもたまたまだよ」
「さやか先輩、お願いします」
「棺桶に入れるなら燃えるじゃない? だから結局、何の写真でもいいんじゃない?」
苦笑したさやか先輩を僕は静かに見つめた。
「ダメに決まってます。さやか先輩なら分かりますよね?」
「え?」
「ひどいです、さやか先輩」
さやか先輩ははっとした。そして口角を少しあげた。
「……そうだね、太陽くんはいつも生半可な気持ちでカメラを撮っていなかったもんね」
「はい」
「適当な写真じゃ怒られるね」
「はい」
「いいよ」
さやか先輩が頷き、僕も強く頷いた。
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