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葬式に行く気なんてなかったけど、行かなきゃ後悔する気がした。
僕はさやか先輩と最後に太陽くんの顔を一緒に見た。
他の参列者が涙を流す中で、僕たちは泣かなかった。
それは決して、強かったわけではない。
太陽くんは空へと旅立った。
さやか先輩と
夜の雨上がりの帰り道。
「あ、あの夏目さんですよね?」
声がして振り返る。
見知らぬ女の子がいた。
「ええと」
「わたし兄の、太陽の妹です」
「妹さん?」
「写真であなたのこと拝見してて。兄があなたにこれを。生前に兄が撮った写真です」
差し出されたのは裏返しの写真三枚。
妹さんから受け取り、表を向けて、僕とさやか先輩は驚く。
「同じ写真だ……僕が撮った写真と」
「ねえ夏目くん、どういうこと……?」
「どういうことって……」
同じ写真の意味を考える。
考えて考えてたどり着いた。
太陽くんは最後まで人生を受け止めきった。
太陽くんは自分のためじゃなくて僕のためにこの写真を撮らせた。
僕が人生を悲観しないように。
きっと同じ写真を撮ると予測した。
僕らは出会った時、同じ紫陽花の写真をとっていた仲だから。
……太陽くんはただ最後に僕との思い出を連れていきたかったわけではない。
離れていても繋がっていると言いたかったのだろう。
なんて太陽くんらしい。
見ていると感情が溢れだすから、写真を裏向きにしたけれど、それでも落ちてしまった涙。
ポロポロ溢れたその涙で、写真の裏に文字が浮かび上がる。
『この涙は乾く。前を向いて』
その文字は太陽に乾かされるとすっと消えた。
この仕掛けをどうやってしたのかは知らない。
「太陽くんは私に憧れを抱いたのかもしれない。それでも太陽くんが一番好きなのは夏目くんの写真だったんだね。太陽くんは雨を虹にしたんだね。悲しみをつれてちゃんと虹にした」
さやか先輩が優しくそう言う。
「……僕、部活の六月のテーマの写真で一位をとります。大きな写真コンクールにも応募してみようかな」
「そうしたら、夏目くんをいじめてきた子たちも見返せるね」
「いじめのこと知ってるんですね」
「太陽くんからちらりと聞いた」
「……見返すとかは興味ないけど、やっぱり写真部の自分に誇りをずっと持っていたいから。……もうこの決意が揺らいだりしないと思う」
「太陽くんは夏目くんの、あなたの写真が好きだった。賞をとるとらない関係なしに。今ごろ天国で夏目くんの写真を見て微笑んでるんじゃないかな」
……そうか。
いま思うのは、
この時間が、
この景色が、
僕らの雨をやませる秘密
「だからもう泣いてたらだめよ」
さやか先輩にそう言われて僕は頷く。
泣くのをやめよう。
他の誰でもない君のために。
「見ててね、太陽くん」
雨上がり、僕らの絆はあの空の向こうで虹になっている気がした。
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