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狂気のすっぽん、なんでも噛みつく。澄んだ水の中、目につくものすべてに嚙みついた。水草が揺れ、魚たちは驚き散り散りに。小さな石さえ彼の餌食。夜の帳が降りる頃、月明かりの下には、彼の影が水面に映る。闇に紛れてすっぽんは、強く静かにつき進む。
遠くから見る者たちには、彼の狂気が神秘に見えた。鋭い目力、力強い顎。噛みついたものは決して離さない。そう、彼の狂気はすなわち執念。
ある日、ひとひらの蝶が舞い降りた。羽を広げ、優雅に水面に。すっぽんは蝶に魅了され、嚙みつくことを数瞬忘れた。蝶は風と共に舞い上がり、すっぽんの影だけが水面に残った。
狂気のすっぽん、その日も何かに嚙みついた。美しいものだけにだけは、噛みつかなくなった。
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