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勉強
俺のあとをついてくる兄貴たちを睨み返しながら、ファミリーレストランに着いた俺は兄貴たちに小声で言いきる。
「いいか、ぜったい入ってくるなよ!!入ったら」
ゴキゴキと指の骨を鳴らして意味を示すと兄貴たちは、お客の邪魔にならない位置で立ち尽くしていた。
*
「伊野尾さん、伊野尾さん!!こちらです」
まったりした声が俺を呼び、手を左右に振りまくっている。春山は俺のこと太陽だって言いまくるけれど、太陽なのは春山だよ。
「勉強見てもらう立場逆だろ?」
向かい側の席に座ると春山は立ち上がり椅子ごと移動し左側に着席する。シャンプーのいい香りがしたが気づかぬふり。
「えへへ~気づいてましたか」
春山の右手の端が黒ずんでいる。シャーペンかボールペンの染みだろう。俺に教えるべく用意した全教科のノートの山。
「伊野尾さん、今度は私が助ける番ですので」
最下位から数えた方が早い俺の成績。成績が良くなったって俺なんて意味がないんだよ。
「委員長が頑張ったってそのうち退学だろうな」
「それはどうでしょう?制服着崩してませんし、髪だって茶髪から黒髪に戻してくれたではありませんか」
春山がいたからそう口を開きかけそうになった。窓の外に映る黒スーツ姿の兄貴たちを見た瞬間、現実に引き戻された。
「ウゼ!!あーウゼ!!委員長だからって調子乗って、これだから友達が一人もいないんだよ!!」
徹底的に嫌われろ。そしてもう関わるなと突き放すために俺の心にも響く本音をぶつける。
黒い日々は、こわくて暗いあの日と同じだってことをわからせるために。
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