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委員長の言葉がなぜか俺の心をポカポカとさせてくれる。俺には縁がないとばかり思っていたこれが。
カランカラン
来店を知らせるベルが鳴り響き、ファミリーレストランの店員の焦った声が聞こえてくる。
「お客様、お待ちになっているお客様もいらっしゃいますので」
「すぐに帰るから」
角刈りの親父の頭が見えた。兄貴たちが親父に教えていることなんて来店する前からわかっていたのに。
「な、なんだよ!!」
ガタンと立ち上がり、咄嗟に委員長の前に出て手を広げていた俺。
親父はせつなげでどこか嬉しそうに目を細め、深々と頭を下げた。
「剛史と仲良くしてくれてありがとな。お嬢さん、息子をよろしく頼むよ」
「伊野尾さんのお父さん。はじめまして春山と申します」
俺の後ろで委員長が深々と頭を下げているのは想像がつく。状況が読めない俺は両手を広げたまま、親父の動向を伺う。
「剛史がおれたちの日々をよく思っていないことは前々から気づいていた。前妻と同じ心優しい人間に真っ暗な日々は向かない。お前らアレを・・・」
十六時のファミリーレストランであぶない黒いものをと俺はますます身構えた。
俺の胸に突きつけてきたのはただの白い紙切れ一枚。
「なんだよ?これ」
「産みの母さんの居場所が書かれている。今週末におれの戸籍から除籍されるからな。新しい戸籍は産みの母さんが作ってくれている」
学校近くの住宅街の住所が書かれている。前々から暮らしたがっていたと兄貴たちも話しに加勢して。
「裏の社会勉強よりも剛史坊っちゃんはまっとうな社会勉強を受けてください」
「と言うわけだ。よろしく頼むよ。お嬢さん、サヨナラだ中途半端な悪ガキ息子よ」
親父と兄貴たちが去っていく。何事かとこちらに視線を向け、スマホ撮影しようお客には睨みをきかせて撮るなと怒鳴り付けている。
「委員長、少しタイム」
「私は大丈夫です。行ってください伊野尾さん」
黒いスーツの三人組の背中から離れたかった。やっと願いが叶ったけれど、こんなお別れかたなのか。
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