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猛烈な頭痛とともに目が覚めた。ここはどこだ。
「目が覚めたか。さすがに昨日は飲みすぎたな。お前がそんなに酒が弱いとは知らなかったぞ」
「少将殿」
慌てて身を起こそうとしたが、体が思うように動かなかった。
「無理をするな。牛車の準備が済むまで横になっていろ」
部屋の片隅で脇息に寄り掛かったまま、少将殿は言った。言葉遣いも振る舞いもいつもの少将殿だった。夕べの濃密な香りも消え失せていた。
どすどすと廊下を踏みしめる音が聞こえて、年を取った女房が入ってきた。
「若殿様、今が一番姫にとって大切な時期だと分かっておられますか? こんな若造を家に引き連れて酔いつぶすなんて、どんな噂が立つともしれませんわ。軽率にもほどがあります」
「分かってる分かってる。だから穏便にひっそりとご帰宅願うんじゃないか。大丈夫だ。こいつの口は堅いさ」
「まったく」
女房は忌々し気に私の顔をにらみつけた。
私は夕刻にひっそりと自宅に送り届けられた。それから三日三晩眠り続けて両親を心配させたが、目ざめてからは体調に異変は生じなかった。少将殿のもとからは、見舞いの菓子とともに小さな手毬のおもちゃが届けられた。
翌年、姫君は東宮様の元に参上した。
私は播磨の国の国司の職を得て、都を離れた。
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