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私は伏し拝むようにその場にひざまずいた。
琴の音が止んだ。
「琴の音に吸い寄せられて。まるで灯火に身を投じる蛾だな」
冷たい声が嘲笑った。聞き覚えのある、低い男の声だ。
この声は、少将殿?
姫がゆっくりとこちらに向き直った。透き通るような白い肌に、凛としたまなざしと、少女の微笑みを宿した口元。
この美しい顔立ちは、誰なのか。姫なのか? 少将殿なのか?
姫君が立ちあがった。思った以上に上背がある。この立ち姿は間違いようがない。
少将殿だ。
「な、何と言うひどいお戯れでしょう。」
「ひどい? どっちがだ。お前は俺と初めて出会った日を忘れているではないか」
「忘れてなどおりません。我が屋敷にて一緒に碁を打ちましたなあ。全く歯が立ちませんでした」
「ふん。聞き覚えはないか?『舞え舞え舞え舞えかたつむり舞わぬと牛に踏ませるぞ。舞えば常世の花園へ』」
「そ、それは!」
思わず立ちあがろうとして異変に気付いた。体が動かない。
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