黒夜に流れる思い出は

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唐渡(からわたり)の特別な香だ。嗅いだことがないだろう。事前に解毒の煎じ薬を飲んでおかなければ体の自由を奪われて、かわりに甘美な夢を見る」 少将殿は意にも介さず私の背中に手を回し、胸元に顔を押し付けた。少将殿の乱れた黒髪が、私の胸元一杯に広がっている。すべてが黒い闇夜の中で、少将殿の黒髪が灯火に映し出されて鈍く輝いている。清らかな水の流れのようだ。 「俺は誰だ?」 「しょ、少将殿でございましょう」 「そうだ。ではお前は俺を誰だと思っていた? 俺と初めて碁を打った時、お前は何を見ていた? 俺ではなかっただろう。お前の胸中にある俺の妹を見ていたのだろう? あれは、俺だったのにな」 「どういう・・・ことですか」
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