5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「唐渡の特別な香だ。嗅いだことがないだろう。事前に解毒の煎じ薬を飲んでおかなければ体の自由を奪われて、かわりに甘美な夢を見る」
少将殿は意にも介さず私の背中に手を回し、胸元に顔を押し付けた。少将殿の乱れた黒髪が、私の胸元一杯に広がっている。すべてが黒い闇夜の中で、少将殿の黒髪が灯火に映し出されて鈍く輝いている。清らかな水の流れのようだ。
「俺は誰だ?」
「しょ、少将殿でございましょう」
「そうだ。ではお前は俺を誰だと思っていた? 俺と初めて碁を打った時、お前は何を見ていた? 俺ではなかっただろう。お前の胸中にある俺の妹を見ていたのだろう?
あれは、俺だったのにな」
「どういう・・・ことですか」
最初のコメントを投稿しよう!