黒夜に流れる思い出は

13/16

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「父が子宝に恵まれなかったのは知っているだろう。たくさんの愛妾もいたというのに生まれたのは俺と妹だけだった。おまけに俺は幼いころ体が弱くてな。十まで生きるか危ぶまれていた。前世から俺をつけ狙う(もの)()がいるというのが祈祷師の見立てだ。物の怪をだますために()(わらわ)の格好をさせられていたのだ。お前と鞠遊びをしたのは、俺だ。楽しかったなあ。俺は初めて人との触れ合ったと思ったぞ。なのにお前は俺に気づきもしなかった。何が囲碁だ。お前があの時あっさりと負けたのは集中していなかったからだ。お前は俺のそばにいながら俺から一番遠いところにいたのだぞ。」 私の脳裏に、さまざまな少将殿の表情が浮かぶ。そのすべてに夢想の姫君の横顔が重なる。私はありもしなかった幻を追い求めていたのか。 「お前が一度でもあの時の姫が俺ではないかと気が付いていれば、こんな真似はしなくて良かったのにな」 少将殿の手が、滑らかに私の胸の上を這う。私が今まで姫君に抱いていた膨大な思慕が、今一つになろうとしていた。私はこのまま身を任せてしまえばいいのだろうか。 「お兄様、いけません」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加