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部屋が夕闇に包まれる。雨夜であるがゆえに一層闇が深い。少将殿のお顔がほの白く浮かび上がっている。
「暗いな」
少将殿がつぶやいた。
「まもなく灯火が参りましょう」
「夜が明るいなどと思ったこともないが、雨夜の暗さは格別だな。黒に塗りこめられていく。まるで女の黒髪に巻き絞められていくようだ」
少将殿の白いお顔が少し微笑んだ。私は、少将殿の烏帽子から黒髪があふれて、部屋中に黒く満ちていく幻想を見た。この黒髪に巻き絞められるのは、悪くない。
「麗景殿の女のところには、相変わらず通っているのか?」
麗景殿とは後宮の一つである。私にはそこに仕えている女官の一人に愛人がいる。少将殿はそのことを言っているのだ。
「は・・ご存知でしたか」
「よくできた妻がいるというのに、悪い男だな」
「恐れ入ります」
確かに私にはもったいないような立派な妻がいる。賢くよく気が付き、かわいらしい笑顔の女だ。
しかし。
「何か気にいらぬところがあるのか?」
「いえ、身に余る妻です」
「遊びは男のたしなみか?」
「おそれいります」
「宿直などせず女の髪を撫でに行きたいのであろう?」
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