黒夜に流れる思い出は

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「決してそんなことはございません」 「まことか? まあこんな夜は女の元になど行かぬが良い。黒髪が蛇に変わるぞ」 「ずいぶん恐ろしいことをおっしゃいます」 「ふん。俺は時々、今自分がまさぐっているのが黒髪なのか蛇なのか分からなくなる時があるぞ。あれは恐ろしいものだ」 「また御冗談を」 そう言って笑い飛ばそうとして、私は声を飲み込んだ。闇の中にうっすら浮かぶ少将殿の顔に全く表情が浮かんでいなかったからだ。 闇よりも重い沈黙が訪れた。 「灯火が参ります」 そう言って火をともしに来たのは見慣れぬ少年であった。 「私が供に連れてきたのだ。日頃は姫の小間使いをしておるが、宮中での立ち居振る舞いも一度見せておこうと思ってな」 私はぎょっとして少年を見た。愛くるしい顔をした子供である。 「聞きたいであろう。私と姫は似ておるか?」 言葉が出なかった。少将殿は今夜、どうかしておられる。 「では私が聞いてやろう。そなた、私と姫は似ておるか」 少年は小首をかしげてから答えた。 「姫様とは御簾(みす)ごしに用事を承るだけでございますから、お顔を拝見したことはございません。申し訳ありません」
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