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「あ、いけない、乳母だわ。あなた、早く離れて」
少女から言われて、私はあわてて宴席に戻った。すっかり酔っぱらっていた大人たちは私が席を外していたことには気づいてもいなかった。父が左大臣様にこびへつらっている姿を見るのはいい気持ではなかったが、そんなことは先ほどの少女の面影で吹き飛んでしまっていた。
あれが、左大臣家の姫君だ。
左大臣様はお子には恵まれず、男子が一人と女子が一人。それを掌中の珠のように大切にお育てになっていた。下賤な一切のものから遠ざけられた、生粋の姫君の姿を私は見たのだ。
それっきり、私が左大臣様のお宅を訪れる機会はなく、成人した今となっては近づくことすらはばかられる。
少女の面影だけが成長する。少将殿とともに。
少将殿と初めてお会いしたのは、今度は左大臣様が元服前の少将殿を連れて私の家を訪れた時だった。家じゅうをひっくり返したような騒ぎでもてなしの準備をした。
そのかいあって左大臣様は珍しい酒と肴を前に大変な上機嫌であった。私は少将殿と囲碁を打った。私よりも三つ下でいらっしゃるのに、囲碁の腕前は圧倒的であった。
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