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出会い
新卒で外回りをしていた頃だ。あの時も雨だった。なかなか成績も出ず落ち込んでいた。
「そりゃ、簡単に取れたら苦労なんかしないよ」
回りの同期が少しづつ成績をあげてる中、まだ成績が取れないのは若干焦る。このまま一生契約なんか取れないじゃないかと思う。そのまま俺は重たい足取りで吸い込まれるように喫茶店に入った。まばらな客の入りで空いてるテーブルの席に通された。
「お、おしぼりです」
「あっ、ありがとうございます」
「ご、ご注文はお伺いします」
注文を取りに来たウェイトレスは震える声で緊張してるのか若干吃り気味だった。
「ホットコーヒーを……もしかして緊張してる?」
俺は冷やかし半分で聞いてみた。
「ホ、ホットコーヒーですね。えっ、じ、実は初めての注文取りで……」
「そうなんだ……じゃあ今日は記念日なんだね。初めての客で光栄だな」
俺はさっきまで落ち込んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるほどくすっと笑ってしまった。
「あ、あの笑わないでください」
「ごめん、ごめん」
頬を膨らます彼女からなんだか目が離せなくなった。
雨は強くなってきた。外を歩く人たちの傘が開き出した。
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