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きっかけ
それから何故か彼女のことが忘れられなくなり、この喫茶店に足繁く通った。そして徐々に通ううちに変化を感じた。
「あら、いっしゃいませ。今日も外回りですか? ホットでよろしいですか?」
最初の頃に比べて接客中の会話から吃りが消えていた。笑顔も自然になっていた。この頃になると俺は彼女に完全に惹かれていた。慣れてきたとは言え、一生懸命な態度が好感を持てた。
「うん、ホットで。それと、あのさぁ……これ……」
「なんですか?」
俺は彼女に折り畳んだ紙切れを渡した。
「もし良かったら連絡くれないか? それ俺の番号だから」
「えっ、えっ!?」
彼女は戸惑ってそのまま厨房に隠れるように行ってしまった。
「まずかったかな」
俺はそう思い肩を落とした。数分後、彼女はホットコーヒーをトレイに乗せ出てやってきた。
「お待たせしました」
彼女は慣れた手つきでテーブルにコーヒーを置いた。そして小声で呟いた。
「これも……」
彼女は同じように折り畳んだ紙切れをそっとテーブルに置いた。
「私の連絡先です」
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