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想い出に出来なくて
彼氏はすごく優しくて頼りがいがある。それなのに私はその期待に応えることを躊躇った。なぜだろう。でも答えは分かっている。高校時代の、昔の微かな想い出が邪魔をしているのだ。そんな当てのない想い出をいつまで引きずって生きているのかと思うと自分自身が嫌になった。ただこの想い出が昇華しない限り、彼氏と結婚するなど中途半端にすることはどうしても出来なかった。何を今更と思う。じゃあ今までの付き合いはなんだったんだろう。
「新しいことをしたいな」
私の口癖。その中にはもちろん恋も含まれる。でも今に思えばこの恋は後ろ向きだったのかもしれない。
この彼と楽しい時間を作っていけば、もしかすれば忘れられるかもと思った。そうすれば時間が経ちあの頃の想い出も薄れてくれるだろうと。私のこの彼氏との時間は彼のことが本当に好きだったのは間違いない。『本当は誰が好きなの?』そう問われても即答で彼氏の名前を言える自信はあった。そうやって付き合い続けた四年間は嘘じゃない。ただ『結婚』と言う言葉を口に出された瞬間、今までの彼との時間が思い込みだと気づいた。迷いが生じた。
私はベッドに突っ伏した。
「私は酷い女だ……これはきっとささやかな裏切りだ。どこかで裏切り続けていたのだ。彼からすれば重大な裏切りのはずだ」
「どうしてなの?」
いつかは忘れられる。いつも忘れられそうと思っていたのに何か人生の岐路に立つ時、私は思い出していたことに気づいた。そして……結婚しようと言われた時、はっきりと昔の想い出に本当は心が奪われていたことに気づいた。
「まだまだ、全然風化出来ていない。あの人は想い出になっていない……」
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