大きな傘と小さな傘と想い出とさよならと

本当に大切なこと

　彼女から別れを切り出されたのは結婚を口にして三日後のことだった。突然のことだったが薄々感づいていたことでもあった。
　暫くは彼女のこと以外考えられずにいた。

　──これは裏切りなのだろうか？──

　俺には良く分からなかった。人を好きになるのは簡単なことじゃない。はい、今からこの人を好きになりますなんて機械的になれればどれだけ楽なことだろう。しかし、そう恋など簡単なものじゃない。恋は突然に始まったりもするし、思いを恋と気づかずに過ごすこともある。一瞬で冷めることもあれば、ずっと引きずったりもする。
　彼女の場合は曖昧な恋であったものがことあるごとに刺激され、しっかりとした形で自分自身の中の思いが恋ということに気づいたことになる。ただそれだけだ。そして、その決定打が『結婚』と言うワードだったのだ。
　それだけの想いを寄せる相手に嫉妬もすれば悲しくもなる。きっと彼女は辛い恋をしているのだ。報われることがないような恋に気づいたのだから。
　多分暫くは俺も彼女を引きずるのだろう。それが何年かかるか分からない。もしかしたら明日までなのかも知れないし死ぬまでかもしれない。諦めという簡単な言葉では収まらないのだかそれから三日後に彼女からの別れを受け止めた。