ある日の雨

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ある日の雨

「あっ……雨だ」  傘を持たない俺はその場凌ぎで小さな喫茶店に入り込んだ。普段は奥まった席を好むのだが、今日はなぜだか窓際のテーブルの席に腰かけた。窓ガラスは雨の雫が流れている。ぼんやり見ていると道路が徐々に濡れていき、まるで一気に塗り替えられたように景色を変えた。通りは傘が開き色とりどりに花が咲いたようだった。  ウェイトレスがテーブルにやってきた。まだ、学生だろうか。慣れない接客態度で俺に注文の品を聞いてきた。雨のせいか肌寒く感じホットコーヒーを注文した。 「こんな感じだったかな」  あれは俺が新社会人として営業回りに疲れて飛び込んだ喫茶店、そこで当時、彼女が大学生に成り立てでアルバイトでウェイトレスをしていた頃を思い出した。 「初めて会った日もこんな風に辿々しい接客だったな」  なぜか微笑ましく思いながらホットコーヒーが来るのを待った。  外は雨足が強くなり人の流れが少しだけ早送りしているようだった。
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