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1話 失恋の中で…
屋敷中に、パシンッという音が鳴り響く。
「この…公爵家の恥晒し!」
それは、この屋敷の[[rb:女主>おんなあるじ]]が、私を叩いた音。
全く……わざわざこんなボロい使用人室まできて、そんなに怒らなくてもいいではありませんか。
一番辛いのは…私なのですから。
「情けない…子爵令嬢程度に、皇妃の座を奪われるなど…」
私だって……射止められたらどれだけよかったか。
……幼い頃から皇太子殿下をお慕いしていて、辛くないわけがないじゃない。
「夫亡き後も、使用人の子のあなたに教育を受けさせた私の身にもなってよ。」
叩かれて赤く腫れ上がった頬を右手でさすっている私を、義母ヴィオラは私を苦虫を噛み締めたような表情で私の方を見つめます。
「一途だかなんだか知らないが、側室も取らないなんて……。選定式で子爵令嬢に負けた皇太子妃有力候補なんて…まともな見受け話は…」
「方法はありますよ、お母様。」
そんな母の言葉を聞いた腹違いの兄は、こんな提案を指摘をしてきました。
「実は、皇太子妃選定儀式の直後、公爵家から縁談がきまして」
そう言って、義兄は一枚の手紙を私たちに一枚の手紙と便箋を見せました。
それを見た私は、背筋がゾッとしました。
便箋に書かれたマークは、ロータス公爵家のものでした。
その公爵というのは、妻を亡くした40代の小太りの男性で、子を儲けることが叶わなかった公爵は、後妻を探しているそうなのですが……縁談を申し込む相手は、もっぱら若い子ばかりだという噂が耳に入っています。
「まぁ、公爵家なら問題ないわね。いい縁談を持ってきたじゃない」
「お褒めいただきまして光栄です。」
「アイリス、あんた……もちろん行ってくれるわよね?」
なぜ、失恋したばかりで……このような思いをしなくてはいけないのでしょう……。
しかし、拒否権はありません。
これを逃せば、私は今期を逃す可能性が高くなります。
結婚できるだけ、マシかもしれません。
「は……」
そう思った私は承諾の返事をしようとしたちょうどその時、扉がバンっと開く音が聞こえました。
「奥様!大変です!」
「なんです騒々しい!」
義母様は使用人をそう叱責しますが、使用人はそれどころではないのか大慌てで要件を口にしました。
「……オリバー・ライラック様がいらっしゃいました!」
その名前を聞いて、その場にいた一同が言葉を失いその場から動けなくなりました。
なぜならば……このような場所で聞く名前ではなかったからです。
「ら……ライラックって……隣国の国王じゃないの!」
「敵国の国王が、うちに何の用だ!?皇宮を通さず直接か?」
ことの重大さに気がついた義兄様と義母様が使用人に詰め寄ります。
「いえ、皇宮の使者と共にいらっしゃいました。どうもすぐアイリス様にお会いしたいと……今、客間に……!」
「なんですって…!?」
それを聞いた義母様は、客人がいるという応接間にドタドタという音を立てて向かい、その後を義兄が追い、さらに私が追いかけました。
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