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4話 新しき国へ
「まさか、今日来るとは思わなかった。」
隣国に移動する馬車の中、隣国の王はククッと喉を鳴らしながら笑ってそう言いました。
「ご迷惑でしたでしょうか?」
「いや、いつでもいいように準備はしてある。」
私は少しほっとしました。
プロポーズされたからと言って、流石になんの準備もないのに相手の家に押しかけていいものか悩んだのですが……いたし方ありません。
「君こそ、よかったのか?」
「えぇ。家にいるよりはマシですわ。」
「まぁ、聞かずとも察するがな。」
元々いい思い出もないので、名残惜しくもありません。
それに、正直待ったなしの状態でした。
もし、このお方が家に来るのが1秒でも遅ければ、私は一回り以上違う公爵の後妻として、入籍を了承していたのですから。
とはいえ、彼とは歳が近いというだけの話で、隣国……それも敵の国に嫁ぐと言うのは、公爵の後妻になるよりも、ハードかもしれませんが。
「しかし、酷い扱われようだな。」
「……まぁ、死んだ父と、使用人の娘ですから。」
よくある話。
貴族ですらない使用人に父が手を出して、生まれた子……
義母様から見たら、私の存在が面白いはずがありません。
皇太子妃にしたいと言う目的で、教育は受けさせられましたし、ご飯もまとも着るものもありましたから……そこには感謝しますけど。
でもできなかった時の折檻や、使用人たちの嫉妬でいじめられたことも数多く、部屋は使用人の部屋よりもボロボロの部屋でした。
「義母様のお役にってなかった以上、仕方ないかもしれませんわね」
そう、当然のこと。
仕方がないこと。
泣き言を言ったってしょうがないのです。
だからでしょうか……
「……聞いた通りか。」
隣国の王が、そう呟いたのを、私は聞き逃しませんでした。
それが何を指すことなのかは分かりませんが、私にこのような話が来て、突然ウチに来るということは、ある程度皇太子殿下から話を聞いていたのでしょう。
自分の皇太子妃候補筆頭の情報を、知らないわけがありませんもの。
そんなことを一国の国王に話す、ということは……
きっと、政略結婚ということは…何かの取引があったのだろう。
「ついたようだな。」
気がつくと、馬車が止まりました。
ふと馬車の外を見ます。
いつの間にか、国境の関所まで来ていたようです。
敵国との境目であるこの関所に来たことは今までありませんでしたので、新鮮です。
しばらく停止したのちに、馬車が動き始め関所の中を通り始めました。
手続きが終わったようです。
ここから先は未知の世界。
敵国という土地でどのような扱いを受けるのか、身を案じておりました。
この若き国王がどういうつもりで私に求婚したのかは分かりかねますが……仮に真実の愛というものが存在していたとしても、国民から蔑まれるでしょう。
そう……思っておりました。
しかし、馬車が関所を通り抜けた直後、突然トランペットの音が聞こえてきました。
それも大音量です。
それに驚いて、私は窓の外に顔を出します。
「な……な………なんですのこれは!?」
はしたなく叫んでしまいましたが、それも今日ばかりは仕方ありません。
関所から続く一本道の両脇には、トランペットを口にあて演奏している兵士たちが、ずらりと並んでいるのです。
どこまで?分かりかねます。
終わりが見えないのですもの。
そしれに、トランペットが演奏されているだけれはありません、その後ろでは、綺麗な服を着た女性が、カゴを片手にそしてもう片方の手で、花びらを撒き散らし、あたり一体には花びらが舞っていました。
そして、彼らは言いました。
「お待ちいたしておりました、新しき王妃様!」
蔑まれるどころか……大歓迎って……どういうことなのでしょうか。
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