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会場に近づくにつれ、俺の胸は高鳴った。
いつか、生でみたいと思っていたバンドのライブに来ているのだ。
興奮するなという方が無理な話だ。
「よくチケット取れたよな。」
「真斗の為ですから。」
「ありがとう。」
俺と晶は他愛のない話をしながら、開場まで待っていた。
「晶くん。」
すると、1人の男性が晶の名を呼びながら、こちらに近付いてきた。
「後藤さん、こんにちは。この度は、本当にありがとうございました。」
「晶くんの頼みは断れないよ。」
「そういう所、素敵です。」
ん?距離近くないか?
それとこの匂い。
昨日の香水ではないか。
ってことは、昨夜、晶が会ってた相手はまさかこの男?
俺は後藤と名乗った男を見た。
顔には愛想笑いを浮かべながら。
「こちら職場の先輩の後藤さん。」
「初めまして、後藤です。君は、真斗くんかな。」
「はい。」
「やっぱり。晶くんの言ってた通り、格好いいね。」
「ちょっと、後藤さん//」
「だって、いつも俺に言ってるだろ?」
「そうですけど//」
俺は何を見せられてるんだ。
晶が他の男とイチャついている所なんて見たくない。
「晶、俺、あっちで待ってるわ。ゆっくり話してこいよ。」
俺は2人が見えなくなる所まで歩いた。
恋愛に奔放な晶に、遊んでる人が居たっておかしくない。
だけど、それを実際に見たくなかった。
「真斗!」
晶の声がしたような気がして、俺は振り返った。
「ひとりで行くなよ。」
「仲良さそうだったから。」
「後藤さんとは何も無いよ。」
「どうして俺に言うんだ?俺たち、ただの友達なのに。」
「真斗に誤解されたくないから。」
「でも、香水...」
「え?」
「昨日の晶は、あの人と同じ香水の匂いがした。」
「帰り際に抱き締められた。それだけ。」
「そっか。」
「俺から触れたりはしないよ。って信じてもらえるかわかんないけど。」
晶のいつになく真剣な表情を俺は見つめた。
「ライブ楽しもうな。」
俺は何も気にしてない素振りで晶に微笑みかけた。
これが俺の精一杯の強がり。
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