拒め、ばか。

2/4
前へ
/19ページ
次へ
「晶、ここ座って。」 「ん。」 俺は晶を床に座らせ、ドライヤーのスイッチを入れた。 そして、彼の髪を優しく触りながら乾かしていく。 すると、温風が晶のシャンプーの香りを俺の所まで届けてくる。 晶の耳を舐めて、首筋に吸い付いて、そのままキスをして... 気がつけば、俺の頭は邪な感情で埋め尽くされていた。 好きな人に触れているのに、何も出来ない。 今夜も俺の理性が試される。 「乾いたぞ。」 「ありがと。」 晶は振り返り、俺に笑顔を向けた。 この顔をする時は、何か企んでいるときだ。 「真斗って、明日暇?」 「特に予定はないけど。」 「ならさ、俺と出かけよう。」 「行きたいところでもあるのか?」 俺は晶に問いかけた。 「というか、最近、2人で出かけてないだろ?たまには外で飯でも食べようよ。」 「そうだな。休日に家にばっか居てもな。」 「だろ?行こ。」 「うん。わかった。出かけるなら早く寝るぞ。」 俺は無意識に晶の手を握っていた。 やばい、風呂場のキスから俺の理性が崩れかけている。 それを悟られまいと、俺は晶に言った。 「ほら、寝室行くぞ。立て。」 「連れてって?」 「嫌だ。重い。」 「真斗より重くないし。」 「はいはい。」 このやり取り、今夜で何回目だろうか? 「来ないならリビングで寝るか?」 「真斗の意地悪。俺が真斗と寝ないと、眠れないこと知ってる癖に。」 「俺のベッドを占領するのは誰だよ。」 「だから、大きいベッド買ってあげるって言ってるじゃん。」 「いらないわ。部屋が狭くなる。」 「俺とくっついて寝たいなら今のままでいいけどね?」 晶は上目遣いで俺に言った。 全く、こいつは油断も隙もありゃしない。 「暑苦しいこというな、ばか。」 「ははっ、なら今日もくっついて寝るわ。」 晶はどこまで、鈍感なんだ。 さっき、俺にキスされたことを忘れたのか? それとも、晶にとって、俺とのキスは気にするに値しないのか? 考えれば考えるほど、堂々巡りするばかり。 そんな俺のことなんか露知らず、晶は俺に抱きついて気持ちよさそうに寝息をたてている。 「おい、離れろ。」 「やだ。」 「起きてるのか?」 「寝てる。」 「起きてるじゃん。」 「明日、楽しみにしててね。」 「ん?」 俺は晶に聞き返した。 「なんでもない、おやすみ。」 「おやすみ。」 俺はスマホのアラームをセットして、目を閉じた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加