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序章
ぼくの夢は、科学者になって、まだ誰も解き明かしたことのないナゾを見事に解き明かすことだ。どの分野を極めるかはちょっと迷っている。素数のナゾにも興味があるし、宇宙誕生のナゾや生命の起源のナゾにもたいへん興味がある。すぐにそんな大きなナゾの解明にとりかかれるほどぼくはまだ賢くはないけれど、小さなことを少しずつ積み重ねていって、全人類がびっくりするような事実を発見したいのだ。地球が回っているんだって証明したかつての科学者みたいに。
その日は、ある研究の下見のために裏山に来ていた。裏山というのは、近所にある山のことだ。ぼくはだいたい、この裏山で研究のネタを探したり、実験をしたりしている。ずいぶんと前から入り浸っているので、もうほとんど自分ちの庭みたいなものだ。
こごえるように寒い日だった。手袋をしていても、じんじんと指先が痛むくらい寒かった。だけどぼくは科学者になるために、毎日訓練しなければならない。修行中の身なので、弱音を吐くわけにはいかないのだった。
ぼくが向かったのは、裏山にある幅二メートルくらいの小さな川だった。ぼくはこの前ファラデーの伝記を読んで、電磁誘導について勉強した。そしてそのとき、水車を自分で作って、発電できないかと思ったのだ。水車を作るのならどこに作れそうか、下見に来ていたのである。
ぱしゃり、と何かが水に落ちたような音がした。見ると、五メートルくらい先の川上で黒色のネコがじたばたしていた。おぼれているのか判断がつかない。なぜってここの川はとても水深が浅いので、ぼくが入ったとしてもすねぐらいまでしか浸からない。よっぽど運動オンチのネコじゃないと、そんなところおぼれないはずなのである。
ぼくは、靴と靴下を脱いで川に入った。死ぬほど冷たかったし、最近できたマメにしみた。バスケットシューズを新しくしたので、大きなマメが両足の小指のところにできていたのだ。
ざぶざぶと川を上っていき、じたばたしているネコの両脇に手を入れて水から上げた。
「大丈夫かい」
ものすごく深い黒色の毛をしたネコだった。こういうのを漆黒というのかもしれない。黒すぎてどこに目や鼻があるのか、すぐにはわからなかった。
川から上がり、草地にそっと置いてやると、ネコはぶるぶると体をふるわせて水を飛ばした。
「きみは、なんだかふしぎだなあ、ブキミだなあ」
このようにして、ぼくは彼と出会った。
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