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2・告白
「おっさん、樹海に入る前に方法が先でしょう!」
彼女はお笑いのツッコミのごとく言った。
「君の言う通りだ。あああ、じゃあ、このまま野犬に食われるかな」
「わたしはちゃんと、考えてきたんだ。青酸カリ入りの錠剤を飲むの。すぐ死ねるから。あ、もしよかったら分けてあげるよ」
良一は彼女を見た。これから死のうとする人の顔ではない。そもそも、始めから死ぬつもりなら、俺のことなんて気にかけないはずだ。
「あ、おっさんは毒が嫌かな?あれ、苦しいもんねえ。なんかさ、睡眠薬も考えたんだけどさ。あれって助かったりしたら、結構しんどいらしいよ。やっぱり確実に死ねるなら青酸カリでしょう」
良一は彼女に向き直る。
「君は高校生だよね。なぜ、自殺なんて考える?まだまだやりたいこと、いっぱいあるだろう?」
「わかってないねえ。若いから希望があるなんて先入観!」
再び元気なツッコミだ。
「君みたいな高校生がどうして、青酸カリなんて持ってるんだい?」
「やだなあ。おっさん、何時代の人?インターネットで簡単に買えるんだよ。身分証もなしにね。お金さえ払えば、大抵のものは買えるよ」
「そうか。なら、俺も拳銃でも買っておくべきだったかな」
「死ぬ前にさ、どうして、樹海に来たのか、告白大会やろうよ。じゃ、まずおっさんから」
「あのね、さっきから、おっさん、おっさんてなんか傷つくなあ。一応、これでも若いつもりなんだがな」
「ああ。うちらは三十過ぎでおっさん、おばさんだから。そう考えると、わたしもあと十三年でおばさんかあ...」
「へえ。確かにおっさんだな。あ、そうそう、なぜここに来たかだね。俺の場合は衝動的なんだ。今朝まで会社に行くつもりだったんだ。いつもの駅から、いつもの時間に、いつもの電車に乗ってさ。だけど、降りるべき駅で席を立てなかった。足が動かなかったんだ。なぜか会社に行きたくなくなって。しばらく電車に揺られて、気が付いたら静岡まで来てて。その勢いのまま、樹海に入ったんだ。でもさ、死に方を考えていなかった。会社に行きたくなかったのは、まあ、自分に向けられる会社のやつらの視線がさ。ナイフみたいに痛くてさ。あの視線に晒されるなんて、もう地獄だよ」
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