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「先生に言ったら、堕ろせって。中絶手術の費用は出してやるからって。わたし、もう目の前が真っ暗になってさ。呆れて言葉が出なかったよ。わたしが産むって言い張ったら、突然、暴力を振るってきて。あんなに優しかった先生がまるで別人みたいになって...。ねえ、片桐さん、人って都合が悪くなると変わるの?」
和歌子は泣いていた。ハンカチを用意できればよかったが、あいにく、そんなものはない。
「そうだよ。人は変わるんだよ」
良一は妻のことを考えた。妻は良一が出世をしないことにやきもきして、しだいに風当たりが強くなった。あんなに優しかった妻が別人になった。これは悪い夢だと思ったが、朝起きたら現実だった。
妻は良一を気持ち悪いものを見るように避けた。身体を合わせることもなくなった。部屋も個別になり、マンションのローンだけは残った。
無味乾燥な毎日。たまの休日も別行動。愛情の欠片もなくなった。
「わたし、赤ちゃんを、殺したの...。だから、報いを受けなくてはならないの...」
和歌子は嗚咽を漏らしていた。
告白大会なんて、やるべきではなかった。傷口に塩を塗るようなことだった。
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