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3・希望の空
雨が降ってきた。
それは最初は弱々しい雨だったが、しだいに強い雨に変わった。
森の中にいても、木の茂みは庇にはならなかった。二人は身を寄せ合い、しばらく沈黙していた。
「ねえ、雨、止むかな?」
沈黙を破るように和歌子が訊いた。
「どうだろうねえ。止むといいけど」
「片桐さん、雨が上がったら、青酸カリをいっしょに飲もうよ」
良一はそれには答えなかった。
「俺は思うんだ。君は死ぬべきではない。まだ十代なら、やり直しは効く」
「あーあ。そういう答え、もう、うんざり。わたしさ、自殺防止ホットラインに相談したんだよ。相談員の人とおんなじ答えだね。結局、大人はみんな考え方が同じ」
「気の効いたこと言えなくてごめん。これから死のうとしている人の意見なんて、聞くことないね」
良一は自嘲気味に言った。
その時、漆黒の森の中で微かに照明のような明かりが降り注いだ。かと思ったら、次には雷鳴がこだました。
その後、爆弾が落ちたかのように、雷がすぐ近くで落ちた。耳をつんざくような音とともに二人が寄りかかっている木が火柱を上げた。
雷の直撃を受けた木は中央で二つに割れ、割れた幹が頭上から襲い掛かった。
危ない!咄嗟に良一は和歌子を押し出した。和歌子は転がった。良一の両脚が割れ落ちた幹の下敷きになった。
「ぎゃあ!」
脚は完全に骨折しただろう。あまりの痛みに良一の額から脂汗が浮かぶ。
「片桐さん、大丈夫?しっかりして!」
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