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和歌子は良一の傍らに駆け寄った。幹をどかそうにも、重すぎて動かせない。
雨が先ほどよりも激しくなってきた。雷は鳴りを潜めたが、和歌子は漆黒の樹海の中、声を限りに叫んだ。
「片桐さん!死なないで!絶対に生き延びて!」
良一は痛みに耐えながら、言った。
「バカだなあ...。俺たち...死ぬ予定だっただろう」
「ダメだよ。わたし、死ぬのやめた。いっしょに生き残って外に出よう!」
「君、本当は死ぬ気なんて、始めっからなかったんだろう?冷静に、考えたら...わかる。青酸カリなんて、入手できっこないし、本当に死ぬ気なら...俺なんて気にかけない...」
「そういう片桐さんだって、本当は死ぬ気なんかなかったんでしょう!わたし、わかったもん!」
「ハハハ。やっぱり、清水の舞台から落ちるつもりじゃないと...人は本気だとは...思われないみたいだ。こういう時に...使うんだよ」
「うん。わかった!だから、もう喋らないで!わたし、助けを呼んで来るから!」
「無理だよ。こんな樹海から外には出られない。そうだ...。君だけでも...外に出なさい。もしかすると、出られるかもしれない...」
「やっぱり、わたし、ここにいる」
「君はコロコロ、変わるねえ...」
どのくらいこうしていただろうか?
いつの間にか、良一も和歌子も眠ってしまった。
とっくに雨は上がっていた。
鳥の鳴き声があちらこちらで聞こえた。
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