サービスエリア

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 俺達の車は無事だった。  よく考えれば、虹河ごと俺を爆破させたら、次の生贄に誰がなるのかという話になり、一番生贄になりたくないだろうあの叔父さんがそんな命令は出す事はないだろうと俺達は結論を出した。 「すげえな、俺達はよ。命を狙われた若君と次代当主様用生贄というカップルの逃避行になるじゃねえか」  笑いごとにしてくれる虹河がありがたかった。  彼は車を走らせ、次は東京までどこにもとまらないかと思ったが、少し大きめのサービスエリアに車を入れた。  そこで崇継や他の個人秘書達とのうち合わせだと言って、俺の目の前でスマートフォンで連絡を入れ始めたのだ。  待っているだけの俺に、お子様ランチを食べろと言う命令付きで。  可愛い車型のプレートにチキンライスやハンバーグなどの色々のものが乗っていて、小さなプリンのデザートだってある。  小さな変なプラスチックの玩具だって。  持ってきた店員にクスクス笑いをされた気恥ずかしさもあったが、俺は実はお子様ランチなるものを初めて見たからか、少し嬉しかったりもしている。  もちろん虹河は大人だという事で、ラーメンとチャーハンが一人前ずつというトラック運転手向けのラーメンセットだ。  電話に夢中のはずの虹河が、俺のプリンのサクランボを盗んだ。 「あっ!」 「父と子の最後の晩餐の思い出には良いだろう?」 「え?」  今のは虹河の声じゃ無かったと、周囲を見回した。  どこから聞こえた? 「どうした?」 「いえ、あの、父と子の最後の晩餐なんて言葉が聞こえて」 「聞こえないものが聞こえるようになったか」  虹河の溜息は、人面疽を受けた俺が狂い始めの兆候をみせたからか?  彼は両手に顔を埋めており、低い声で、うるせえよ、と吐きだした。  それからゆっくり顔をあげると、俺の右わき、通路の方を指し示した。 「そこに俺の親父がいた。どうしてこんな場所に来たか知らないが、お前との食事に文句をつけやがった。実の子供は放置なのになってね」 「子供いたの!」 「いたよ。俺はモテるだろ?結婚もしたこともちろんあります。ああ、俺なんかとやっていけねえって出ていかれたがな」 「えと、お子さんはいくつなんですか?」  虹河は俺から完全に目を逸らし、新しく入って来た客を眺めた。  ベビーカーを押す若い夫婦。 「……別れた時は二歳かな。食えもしないのに、最後の日にこうやってお子様ランチを頼んでさ、あんたは本当に子供の事を知らないって怒られた」  彼は俺に目線を戻し、少し情けなさそうな顔をした。 「お前は嫌だったか?」 「ふふ。俺は虹河さんの子供か弟でいたいからさ、ぜんぜん。大体さ、お子様ランチって俺は初めて! 可愛いんだね」 「ああ。俺の感性が昔の人間だからかな。ガキと親が一緒に食事する時はさ、ガキにお子様ランチを頼んでやりたいなってね。俺が親父にそうされたからなのかなぁ」 「うん。初めての経験。うん、俺も子供が出来たらお子様ランチを子供に頼んでやるよ。うん、美味しいし、かわいいし、いいね、これは」  俺の頭は虹河の大きな手に撫でられた。  俺は撫でられるに任せ、そのせいで軽く叩かれた。 「ひどい」 「いつものように親父臭い事は止めろって言わないお前が悪い」 「でも、嬉しいし。俺は虹河さんに撫でられて嫌だったことは、あの、本当は一度もないし」  俺達のテーブルになんだか沈黙が落ちてしまった。  俺は撫でられた事で下げていた頭をゆっくりと上げると、うわ、なんと、虹河は自分の口元を手で隠しての真っ赤な顔という、思いっ切り照れていた。 「虹河さんてすごいツンデレ?」 「ばか。いいから喰え。それで伸びてしまった俺のラーメンも喰え」 「うわ、さいてぃ」  俺は笑いながら答えたが、すでに虹河の目は再びあの若いカップルに注がれていて、その目は憧れを見るような目つきでもあった。  彼は子供が今何歳なのか答えられなかった。  彼の子供はどうしてしまったのか。
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