初めてのお友達

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初めてのお友達

 私の繰り返し見る悪夢は、真っ暗で誰もいない街並みで、自宅の家族だって自家用車に乗り込んでその街を出ようとしている、そんな夢だ。  何が悪夢なのかって?  だって、お父さんとお母さんとお姉ちゃんと妹が車に乗っているのに、私はそれに乗せて貰えない。  私が乗せてと車の窓を叩くのに、誰も私を見もしない。  彼らは私を置いてどこかに行ってしまうのだ。  誰もいないこの真っ暗な街に私を残して。  これを悪夢と言わず何と言おう?  でもね、私はあれから少し大きくなった。  言葉の通じない生き物しかいなくて死にそうだった保育園から、一学年分だけ小学生となって切り離されたが、結局は動物は動物だ。  そして私はどう自分が振舞えばいいのかもわからない子供なのに、母も学校の先生も私が子供らしくないと殴る。  お姉ちゃんも妹も叩かれた事は無い。  あの二人はお古なんて着た事は無い。  年の離れた妹は必ず新しい服を母が買ってくる。  この子の趣味は普通と違うわ、と言って妹を褒める。  そして、お姉ちゃんは自分にも服を買って欲しいと言い張るが、お姉ちゃんの服は父の仕事関係の人から貰った素敵なワンピースやブラウスにスカートだ。  そしてその服は、私の一つ上の従姉になぜかいく。  私はその従姉の服が貰えるから同じだと母は怒るが、姉が貰ったあの素敵な服が私にお古に来ることは無い。  従姉の服は、緑色のズボンだったり、茶色のズボンだったり、テレビのアニメーションの絵柄があるトレーナばかりだ。  私はそんなアニメーション嫌いなのに。  そして、従姉のお古は全部毛羽だって汚れている。  だから小学校で私は虐められている。  貧乏人の子供、姉と妹は綺麗な服しか着ていないのに、お前はそんなぼろ服ばかりだからお前はいらない子なんだ、そういわれたのだ。  それで母にそのことを言ったら叩かれた。  お前が全部汚しただけじゃないかって。  お前は嘘つきだ、そう言われた。  だから、ご飯は抜きだって言われた。 「担任の先生も言っていたのよ。お前は犬猫と同じだって。人の足ばっかり引っ張るクラスで迷惑な子供だって。知恵遅れだって。特殊学級に行くべきだって言っていたわ!恥ずかしい、ああ、なんて恥ずかしいの!犬猫みたいにして叩いてご飯を抜いたりして躾けろって言われたわ!」  私が他の人の行動の意味も言葉の意味もよくわからないのは、全て私の知恵が足らないせいらしい。  だから私は言い返した。  馬鹿だって言われるのが悲しくて言い返した。  でも、漢字のテストで全部書いたのに、それを全部消しゴムで消されてバツを全部つけられたんだよ?  バツをした子供は、最初から何も書いていなかったと言い張った。  小さな紙に文字の後があるのに、あの先生は私を叩いた。  だって、その子は先生のお気に入りだったから。  ドラマだったら母親は子供に謝って子供を抱き締めるのに、私の母は私を強くひっぱたいた。 「お前が嫌われるのがいけないんだ! どうして奈美子や朱里と同じように出来ないんだ! どうしてお前の顔はそんなに気味が悪いんだ! お前の顔はあの頭のおかしいお婆ちゃんとそっくりじゃないか!」  お父さんの方のお祖母ちゃんとそっくりだから気持ちが悪いの?  お父さんの方のお爺ちゃんもお婆ちゃんも私に優しかった。  それで保育園の頃にお爺ちゃん達に会いに行ったことがある。  バスで二つの停留所だから、私は一人で行けた。  お爺ちゃん達は喜んでくれたけど、その夜は母にこっぴどく叱られた。 「急に孫が来ると迷惑だって、私が文句を言われるのよ! 勝手な事を二度としないで。あそこの家は子供なんか大嫌いなんだからね!」 「でも、お母さんのお爺ちゃんもお婆ちゃんも私が嫌いじゃない」 「嫌われるお前が悪いんだ!」 「どうしたの。そこに何があるの?」  私は急に声を掛けて来た男の声に吃驚した。  だって、学校の子供は私を虐める人たちばかりだ。  先生はわざと乱暴な男の子の隣に私を座らせる。  その子は私を大嫌いだと言っているのに、仲良くさせるためだと言って何度も隣にさせる。  お前の顔なんか見せるなって、急に殴られる事も何度もあるのに。  それで、先生が注意しないから、私は毎日毎時間殴られている。 「ねえ、君もこの学校の子供なの?」  ああ、転校生なのか。  男の子の癖に私と同じぐらいに小さくて、でも私と違って誰もがきれいだって言うだろう顔をしていた。真っ黒な髪の毛に真っ黒の大きな瞳。  こんな子は見た事ない。  私は私に呼びかけて来た男の子の胸元に視線を動かした。 「名札が付いていないわ」 「え、学校の外では外しなさいって先生が。名前を知られると誘拐されるよって。そういっていた」  そうか、私は嫌われ者だから誘拐されてもいいって事か。  途端に目の前の子供が憎くなった。  転校してきたばかりなのに、どうしてこんなにみんなに大事にされているのだろう。  私はよそ者の家の子供だって、突き飛ばされたり殴られたりしているのに。 「ねえ、あなたは植物に詳しい?」 「うーん。あんまり」 「そうか。土手で見つけたキノコについて一緒に調べて欲しかったんだ」 「キノコって難しいって死んだお爺ちゃんが言っていた。毒キノコが一個でも入っているとね、胞子で全部が毒キノコになっちゃうから、採ったキノコを全部捨てる事になるんだって」 「まあ! お爺ちゃん死んじゃったの。凄く残念だわ。私が見つけたキノコの事、絶対に教えてくれたはずだもの」  男の子は私に手を差し出した。  にこっと微笑む顔は天使みたいだ、と思った。  この子は私と違うんだ、きっとこの子も私を虐めるんだ。  じゃあ、虐めてくる前に殺してしまったら? 「僕、虹川(にじかわ)(けい)。お友達になってくれる? お母さん再婚でね、ほんとのお父さんのお爺ちゃんの話をすると怒るんだ。お父さんに悪いでしょうって」  私の憎しみはするすると消えた。  この子は私と同じ酷いお母さんの子供なんだわ。  私も彼に手を差し伸べていた。 「よろしく。私は遠野(とおの)紗都子(さとこ)
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