事実に衝撃

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事実に衝撃

 花房のもう一つの顔の怨霊封じ?  この地で? 「すいません。急な展開に頭が付いていきません。俺は寝不足みたいです」  大弥彦は俺のベッドを指さした。  そこには昨夜の出来事が嘘では無かった、それを示すオブジェが未だにベッドのマットレスから突き出ている。  俺を殺す凶器に使われたのは、ごぼう。  死なななくって良かったな、本気で今そう思った。 「ああ、納得しました。この怨霊使いが新潟の人という事なのですか? いや、俺の後を追いかけて東京から……。ってか、それはやばいいい! 俺は今すぐ東京に帰らないと! でないと圭君を巻き込んでしまう!」 「落ち着け。あれは圭君に憑いているものだ」 「え?」  俺は呪術の世界では女王様らしい大弥彦を見返すと、彼女はカーゴパンツの後ろポケットに入れていたらしい紙束を俺に放った。  俺はそれを受け取り、それは新聞だと思いながら開いた。  三枚ぐらいしか重なっていないこの土地の町内新聞らしきもので、日付は十日前のものだった。 「原田家で食中毒? 祖母、それから、原田夫妻が病院に搬送されて……死亡? O-157? で、この記事が何か?」 「圭君の母親の再婚相手が原田俊雄(はらだとしお)。亡くなったのは、圭君の義理の父と死ぬ原因となる夕飯を作った母方の実の祖母だ。母親はまだ病院でこん睡状態だ」 「ええ! 話が昨夜から変わっている! 圭君の義理父が浮気とか言ってませんでした? 葬式に来た女が違うからって」 「ああ。あの時点ではそう思った。だが、今朝早く新たな情報を持ってきた者がおってな。そいつから圭君を取り巻く環境について知らされた。母親が入院中の圭君は原田俊雄の弟夫妻の家に預けられている。出迎えた女と葬式のあばずれが違うのはそういうわけだ。ちっ、虹河さんの女の趣味が悪いのが事実だったとは、一番知りたくない事実だった」 「それはぜんぶ夢のお告げか!」  俺は数時間ぶりに大弥彦に頭を殴られていた。  そして、その鬼のような女は、俺を殴った後に時代劇のように手を叩いた。  ついでに、であえ、とも言った。  すぐに俺の部屋のドアが開き、見知っていても俺は一度も話をした事のない男が、部屋に入って来たのである。  すると、俺の横に立っていた大弥彦が、自分が呼んだくせに大声を上げた。 「うちの羽深(はねづか)はどうした!」 「廊下におりますのでご心配なさらず」  彼は真面目な顔で大弥彦に答えた後、俺にぺこりと頭を下げた。 「お元気そうでなによりです」 「あ、あの、ありがとうございます」  国枝(くにえだ)大夢(ひろむ)。  名前の部分は本名なのか定かでないが、国枝は兄よりも二歳か三歳は年上なのは事実で、兄のボディガードをするために大学生にも見える外見に整えている。  いつもは今風の美容院カットのおしゃれな短い髪に、着崩したプレッピースタイルなのだ。  今日は大学が関係ないからか、彼は灰色のスーツを着ており、髪の毛もサラリーマンにも見える年相応な纏め方をしていた。  しかし、明るめの髪に派手な顔立ちのせいか、大学生スタイルの時よりも悪目立ちして、なんだか繁華街のホストみたいだった。  俺が真面目に制服を着た時のようだと、彼には言えないが俺は彼に親近感が沸いていた。 「国枝(くにえだ)さん。あの、兄は良いのですか?」 「俺以外に沢山いるので大丈夫です」 「さ、さようで!」  兄の母方の従兄らしいと虹河に聞いた事があるが、親族として挨拶どころか、今まで一度も彼が俺に近づいた事が無かったので、俺は少々緊張していた。  だって、彼は本当に俺には近づかなかったんだよ?  俺が挨拶しても頭を下げ返すだけで、言葉を返すどころかすぐに目の前から去ってしまっていた人なのである。  なぜかは知らない。  虹河は知っているようだったけれど、気にするな、それだけだった。  逆に、兄のボディガードの人達を俺に近づけたがらない、そんなところがあったと思い出す。 「崇継さんの中で信頼が置ける守り手は、虹河の次が俺なんですよ。一番大事なあなたのために崇継さんが行って来いってね。あなたが東京を発つ前日にはこちらで情報を収集していました」 「あ、ありがとうございます。圭君の家族の事件はあなたが調べて下さっていたという事ですね」 「ああ、それは、大弥彦さん家の羽深さんの仕事ですね。我が花房の警備部は迅速解決がモットーですから、使える情報が誰の情報かなんて気にしませんよ」  爽やかそうに国枝は笑ってみせたが、その失敗したホストみたいな軽薄な外見で、人の仕事の横取り野郎にしか見えなかった。  俺の隣で立っている大弥彦が、トンビめ、と吐き捨てるように呟いた。
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