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ハナブサ君は頑張ります!
星野秀勝は遠野紗都子を毎日のように殴っていた子供だったと羽深は言った。
どうしてわかるの?
そんな事を聞くことこそ彼への侮辱になるかもしれないが、俺の子供みたいな探究心は抑える事が出来ない。
「どうしてわかるの?」
聞くんじゃなかった。
助手席から顔を出した大弥彦は、俺に馬鹿? という顔を見せているし、羽深は咽てしまったような気がする。
「すいません。黙ります」
「いや、いいよ。あんなに死霊に翻弄されていて、死霊の記憶が一つも読み取れなかった事に驚いただけだから。うーん、そうか。どうして普通の人があんなにも死霊に誑かされるのか不思議だったけど、そっか、見えても中を読み取ることは出来ないって事だったのか」
「すいません。ほんとうに、すいません」
「いいから、次からは教えてやるよ。怨霊を前にしてそいつの正体を何も知らないんじゃ、危険極まるからな」
俺よりも高度な霊能力者な二人には、遠野紗都子の記憶も読み取れていたらしく、ついでに言えば、当時の子供の名簿を見ただけで、遠野紗都子が虐められていた当時の記憶と人物が結びつくのだそうだ。
俺が最初に突撃した家は、紗都子の悪口ばかりを担任に囁いていた密告者だったらしい。
先生のお気に入り、とも言うのかな。
「はい、付きましたよ? 暴力的な男です。大丈夫ですか?」
「俺が一発でも喰らったら、多分兄さんに社会的抹殺されるんじゃない? 大丈夫だよ」
俺は冗談めかして言っただけなのだが、うわあ、誰も笑わないどころか納得されている!
兄さんは本当は怖い人なの?
確かめるのが怖い俺は、紗都子人形を抱き締めると、車から飛び出した。
さて、暴力男の星野の家は、その荒んだ生活ぶりをそのもののようだった。
家がバラックとかそういう事ではない。
歴史のあるような日本家屋に見える、大き目の和風建築だ。
しかし、歴史的情緒よりも荒んだ印象を与えるのは、古いだけで手を入れられた事も無いように見えるからだろうか。
引き戸の玄関扉は大きく左右に開けられ、目に見える窓などは全て開け放たれているのだが、人の来訪を望んでいないような気配もする。
また、広い敷地には庭木などもなく、土埃が立ちそうなぐらいに固められた土だけの空間が広がるばかりだった。
大き目の古い家の奥には納屋があり、そこにはトラクター? が錆びついていた。
裏には畑が続いているようだが、ここから見える畑は背の高い雑草しか生えていないように見える。
人が住まなくなって数十年というような、ここはそんな風情なのである。
「さて、いくぞ」
自分に言い聞かせたのは、放し飼いに見えるようにして、三頭もの犬が長い長い綱で繋がれていたからだ。
雑種にしか見えない犬達だが、東京の愛犬家が連れているような、プードルとかダックス、チワワ等のミックスの子というような可愛いものではない。
もはや何を掛け合わせたのかわからない、野犬と呼びたいぐらいの大型の雑種犬なのである。
俺は玄関先にまでは犬は来ないはずだと自分に言い聞かせ、紗都子人形を抱えて星野家の玄関にまで一気に走った。
ワンワンワンワンワンワンワンワンワン。
わああああ。
ギリギリじゃないか!
玄関の石階段を落ちたら喰われる!
「うるせえぞ! って何だお前は! 何しに来た! 見ねえ顔だがどこのガキだ!」
虹河さんも大きかったが、星野はそれ以上に見えた。
身長は虹河よりも少し低いが、横がとにかくがっちりしているのだ。
筋肉系?
俺は殴られても構わないぐらいの勢いだったが、星野の太い筋肉質の腕を見て、ほんの少しどころかかなり怯んでいた。
ワンワンワンワンワンワンワンワンワン。
ひゃあ。
玄関の石段の上にいる俺の足首を噛もうと、一番大きい犬がギリギリに鼻先を伸ばして来た。
「うるせえぞ!」
俺こそびくっとなったが、圭を助けるにはこれしかないと思ってやっているんだろうと自分に言い聞かせ、人形を抱きかかえ直した。
遠野紗都子の無念を俺が代わりに声を出して叫んでやって、哀れな彼女の恨みを晴らしてやろうとやっているんじゃないか。
ええい、ままよ!
俺は覚悟を決めた。
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