一緒に夏を過ごそうよ?

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一緒に夏を過ごそうよ?

「夏越の大祓は六月の行事では無いですか?」  クーラーの利いた、だが誰もが避ける理科準備室に籠ってすぐに、大弥彦は夏が無くなった理由を言ったのだが、これはそれに対する圭の質問だ。  今度十六歳になる高校一年生の俺では無い。  七歳の小学一年生のお言葉である。 「夏越の大祓はそもそも普通の神社の話だろ? 我ら大弥彦家がやる大祓は別物だ。お盆に向けて霊が活性化するからな、我が大弥彦は日本各地の霊場に散って、寄せてくる穢れを祓って霊道を管理するということだよ」 「ちょっと待って、大弥彦さん!」 「何?どうした?英?」  どうしてここでぱあっと嬉しそうな笑顔になるのかわからないが、俺は大弥彦に大事な事を促した。 「どうして圭君に、そんなことを君が知っているんだ! とかの突っ込みが無いんですか? 突っ込んでくださいよ! もしかして、夏越の大祓って常識ですか?」  大弥彦はちっと舌打ちをした後、お前こそなぜ知らんと俺に突っ込んだ。 「ええ! 常識だったの!」  俺は圭を見返したが、圭はスマートフォンを取り出して大弥彦に見せていた。  うわ、俺を完全無視なところは傷ついたが、間抜けな俺と違って日本地図を大弥彦に見せている所が凄いと尊敬した。  彼の中には大人がいるのかもしれない。  あれれーって言って欲しいな。 「ああ、圭君。私が担当するのは東京だよ。東京こそ大きな霊場で、鎮魂に力を入れねばならん場所だ。ここが壊滅したら危険だろ? で、とりあえず、東京担当の奴らとシフトを組んでだな、その結果、私は夏休み入っての二週間は弁天洞窟に籠らねばならなくなったんだ」 「あれれ~! 先輩ったら、それじゃあ潰れる夏休みは二週間じゃ無いですか!」 「お前は! 花火大会は行かないのか! 花火大会は夏休み入ってからの七月後半と八月の一日か二日じゃないか! その期間にがっつり弁天洞窟なんて地下に潜る私には、夜空を眺めてなんて出来やしない! 海だってな、クラゲの出ないお盆前しか遊べないものだろ?私の今年の夏なんか終わったも同然だ!」  うわあ!もっさりブス道を敢えて取っている癖に、夏休みに対してこんなにも思い入れがあった人だったとはと、俺はびっくりだ。 「え、えと、じゃあ、こうしよう。花火大会の日は俺もそこに行くから、順番で外に上がって花火を見るってのはどうかな?」 「あ、それじゃあその日は僕はオフで良いですか? 大弥彦さんが常に一緒なら僕は英さんの警護はしなくても良いですから」  大弥彦は俺から顔を背け、ぶふっと笑い声を立てた。  俺が守るからと新潟から圭を連れて帰ったはいいが、その後も色々と俺を狙った式が飛ばされていたようで、現在進行形で俺が守るはずの圭こそが俺を散々と守ってくれているのである。  ちなみに、俺のカウンター守護天使となった紗都子ちゃんは、俺が本当の危険に陥っていないからかぜんぜん出現してくれない。  圭が怖いからか?  圭は人だろうが式だろうが、危険対象と判断するや、全くの躊躇なく、平気でバンバンとエアガンでその対象に撃ち込んじゃうのだ。  滅って呟きながら!  俺だって時々圭に脅えるぐらいなのだ。  俺はそんな怖い自分の小さなボディガードを自分へと引き寄せると、彼の目を真っ直ぐに見た。  そうだ、俺こそ圭に子供らしい世界を与えなければいけないと思いながら! 「一緒に浴衣を着よう! それに、俺が先輩が潜る弁天洞窟まで独りで行けると君は思うのかな?」 「アンブの誰かに車を出させますから安心してください。誰が良いですか? 僕は北野さんがお薦めです。とても含蓄のある会話が出来る人です」 「却下です。北野さんなら君が一緒じゃ無いと俺は車に乗りません」  圭のお気に入りの北野さんは、ロシア人ハーフの色白で優男に見える人だ。  その外見に圭が惹かれているのならば俺は全く意に介さないが、いや、俺こそ優男系なので俺こそ北野と仲良くなろうとするだろう。  だが、この圭が人の外見で人を選ぶはずないじゃないか。  北野が話す内容はガチな銃器情報しかなく、彼の運転では彼と圭がガチなガンマニアな会話しか繰り広げないので、俺は運転手として一番お断りしたい相手でもあるのである。 「では、道塚さんでいいですか?」  俺は、嫌、と言っていた。  道塚は新潟で星野の家から俺を優しく追い立ててくれた人で、人好きのする笑顔を見せてもくれた青年だが、そんな事は関係ないのである。 「俺は圭と! ええと、先輩と夏を楽しみたいんだ!」  本当は、圭と、としか言わないつもりだったが、大弥彦と目が合ったので大弥彦を入れた。  言わないと殺すという視線だった女は、にへらっとした表情に変えた!  世界は何かが起きているのか? 「ええ~。僕は一人で洞窟に残るのは嫌だなあ」 「じゃ、じゃあさ、線香花火とかさ、普通の小さい花火をやろうよ、みんなで。先輩と俺と圭君、三人でさ。大きな花火が見れない代わりにちっちゃな花火を洞窟の中でやろう!」  圭は眉が一本になるぐらいに眉根を寄せた。  俺のことがやはり嫌なのであろうか?  彼は俺と兄の部屋に住むのも最初は嫌がったのだ。 「ねえ、篤子さん! この人何にも知らないよ! 教えてあげなくていいの!」 「え、ちょっと待って! 圭君! どういう事!」 「ええ!普通水の禊をしている所に火なんて入れないでしょう?」 「あ、そういう事か! あ、じゃあ、えと、別の日に花火をしようよ!花火大会の日は勿論遊びに行くよ」 「うん」  なんと、大弥彦がはにかんだようにして微笑んだ。 「……うん、約束だから」 「ありがとう、約束、ね」  俺はこくんと頷いて見せていた。  なんでか、大弥彦が可愛く見えたのだ。  いや、実は美女な人だよ?  でも、こんなもっさりブス仕様にしているのに、可愛く感じてしまったんだ。
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