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カジュアルと言っても
アンドレ2号が開けたドアをくぐると、いかにも『セバスチャン』といった、タキシードを着た男が、お腹に右手を当てて最敬礼していた。
「いらっしゃいませ」
「あの〜、カレーを食べに来ただけですが……」
私は、今日3度言ったセリフを告げる。
「ただ今の時間ですと、メインダイニングはクローズしております。カジュアルダイニングの方で、ご提供させていただきたく存じます。
カレーライスでしたら、メインダイニングとカジュアルダイニング、同じものをご提供致しております」セバスチャンが微笑みながら答えた。
うん。味が同じなら、庶民にはカジュアルで充分だ。
それとも本当はメインダイニングは開いているのだが、この全身ユニクロの風体を見て、ソッチに回したのか?
セバスチャンは、私の名前を聞いたあと、後ろにいたセバスチャン2号に声をかけた。
「〇〇様を、カジュアルダイニングまでご案内してください」
その声に目礼を送ったセバスチャン2号が「こちらでございます」と、私たちの前を歩く。
両面ガラス張りの渡り廊下を歩いていくと、豪華そうなレストランの入口が見える。
こっちは、メインダイニングなのだろうな。確かに豪華な……
? ?
セバスチャン2号はその中に入り、入口付近にいたセバスチャン3号に「お客様、○○様をお連れしました」と告げた。
本日、何度目か数えていなかった『いらっしゃいませ』
こ、ここがカジュアルだと〜?
都内にある小学校の体育館くらいの広さ全体に赤い絨毯を引き、大谷翔平がジャンプしても届かないであろう天井には蒔絵調の装飾、大きな窓から射す日差しに、純白のクロスが光っているテーブルが並んでいる。
セバスチャン2号と交代したセバスチャン3号は、私たちを明るい窓に一番近いテーブルに案内した。
時間も14時を過ぎたところ、広い室内は貸し切り状態だ。
いつの間にか現れたセバスチャン4号が、家内の椅子を引き、座らせる。家内が座るのを待ち、セバスチャン3号が私を座らせた。
セバスチャン達はいったん退場し、黒革の重そうなメニューを持って再登場した。
「メニューでございます」
見てわかることを言う。
『カレーを食べに来ただけ』と言葉が出そうになるが、儀礼的にメニューを開く。
セバスチャン3号は家内にも同じ行動を取り、退場した。
「どうする? いろいろあるよ」
家内は通販雑誌を読むように、真剣にメニューをチェックしている。
そこには誰でもしっている、昔からある庶民的な洋食の名前、オムライス・スパゲティ・カレーライス・クラブサンドイッチなどなど。
値段は? とみると、貴族が召し上がるような『ナントカのあーたら風・シェフの気まぐれを添えて』に付けるような値段!!
大体ファミレスの3〜4倍だろうか……
メニューは、すでに決まっている。
私は、目で10メートル程離れて立っていたセバスチャン3号に合図した。
すかさず私の傍らに立ち「お決まりでしょうか?」と尋ねる。
「ビーフカレーとチキンカレーをひとつづつください」
だって、カレーを食べに来ただけですから。
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