実食

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実食

 セバスチャン3号と4号が、カレーを運んできた。 「こちら、ビーフカレーでございます」  セバスチャン3号の声に私が手を挙げた。  それを見たセバスチャン4号が「こちら、チキンカレーでございます」と家内の目の前に、静かに置く。  淡い若草色の縁取りされた皿に純白のライス、そして『蓋のないアラジンの魔法のランプ』に入ったカレーが鎮座した。  セバスチャン3号はトレイに載せたもう一つの容器を、私と家内のカレーの間に置く。  三分割された細長いガラス製の容器には、ステンレス製の開閉蓋がついている。蓋を開けながらセバスチャン3号は説明する。   「こちらから、福神漬け、ラッキョウ、チャツネでございます。お好みでお召し上がりください」  福神漬け、ラッキョウ等の庶民的なワードも、セバスチャンの声に乗ると貴族的に聞こえた。  セバスチャン達が視界から消えた後、私は魔法のランプから、それに付いていたレードルでカレーをライスにかける。  この純白のテーブルクロスにカレーをこぼしたら、不敬罪で捕まるんじゃないかな?  私は慎重にカレーをかけ、空になったランプを丁寧にテーブルに置いた。 「なんか、普通ね」  先にガツガツと食べ始めていた家内が、コメントを付ける。  シっ! そんなこと聞かれたら不敬罪で死刑になるぞ‼  私は心の中で家内に注意した。 「ちょっとちょーだい」  家内が私の皿にスプーンを伸ばす。  私は家内が不敬罪で捕まらないように、家内の前に慎重に皿を滑らせた。  そこから食事中の記憶がない。  味も覚えていない。  ひとつ言えるのは『このカレーは飲み物ではない。神への捧げものなのだ』 これを食べに訪れる価値はある。      
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