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咖喱を食らわば庭まで
食事が終わった頃、セバスチャン4号の姿が目に入った。
こいつ、今までどこに隠れていたんだ?
そう考えながらセバスチャン4号に手を挙げた。気が付いた4号が近寄るのを見て、私は挙げた手の親指、人差し指、中指をこすり合わせて会計の合図をした。
立ち止まり、目礼を返した4号は踵を返し、どこかへ消えていく。
ほんの少しの間をもって、4号が銀のトレイにB6版くらいの会計表を携えて現れた。
サッと会計表に目を落とす。
品目料金に税金額のみ、サービス料の記載はない。きっと、サービス料は最後に初代セバスチャンに払わねばならぬのだろう。
私は無言でカードを取り出す。こんなところでは現金を出してはダメだ、庶民だとバレてしまう。ましてやポイント欲しさに「PayPayで」なんて言おうものなら、すぐさま投獄されてしまうだろう。
4号が、カードスキャナーと領収書をもって帰ってきた。
これまた大きい領収書だ。
カレーを食べただけなのに……
席を立った私たちのあとをつけて来た4号に、『大丈夫だよ、そこの花瓶、割ったりしないから』と心の中で告げる。
レストランのエントランスまで来て、来た方向の逆側にとりわけ明るいガラスのドアが目に入った。
『ありがとうございました』と30度の礼をしていた4号が、私の視線の先に気が付いてニッコリ言う。
「当ホテル自慢の庭園でございます。お時間がありますれば、食後のお散歩なぞいかがでしょう?」
おいおい、これ以上滞在したら駐車料金が……
そんな私の心配をよそに、家内が「あら? いいわね」と庭園へ向かった。
お前、この間注意せず入った六本木のコインパーキングで、2時間6,000円取られたのを忘れたのか? あのとき、お前もブーブー言ってたのに……
ウキウキの家内に水を差すと、後でどんな仕打ちが来るか経験済みの私は、黙って後を追った。
庭園への扉は大きなガラスの自動ドア。そういえば、ここまで扉がいくつもあったが、自分で開けた扉が一つもない。
庭に出ると、箱根の雄大な自然を上品に描いた風景広がる。
案内板には通常庭園のほかに、日本庭園・ハーブガーデンなどが描かれてある。
しばらく歩き日本庭園に行き当たったところ、剪定中の張り紙の工事柵があった。
「そういえばさあ、この間のドラマでキムタクが工事現場の柵を飛び越えるとき、カッコよかった~。普通は横に飛び越えるでしょ? それがこうクルっと縦に……」
家内が工事柵につかまり、でんぐり返しの態勢をとる。
キムタクの話は家でもできるから、今は庭園に集中してくれ!
私たちは小一時間ほど散歩し、ホテル内に戻っていった。
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