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休日の午前
「どっか連れてけ」
『うらめしや』とおなじ抑揚の声で目を覚ました。
薄目を開けると、休日でも晴天になると早起きする家内が、私の枕元にペタンと座っている。
「どっか連れてけ」
家内が私の耳に近づき、ヒソヒソ話ではない音量で『うらめしや』と同じリズムで繰り返した。
私は聞こえないふりをして布団をかぶった。
「どっか連れてけ!」
布団を剥ぎながら声のデシベルサイズを上げた。
仕方がない、必殺の『起きるまで叩くわよパンチ』が出る前に目をあけた。
「どっかってドコ?」
眠い目を擦りながらたずねる。
「ランチでもいいからさぁ。アタシだって、たまにはお客さんしたい!」
その気持もわかる。私も仕事柄、サービスを与えるばかりで、たまには人のサービスを受けてみたくなるときがある
それに、夫婦一緒で飲食店を経営していると、視野が狭くなり、サービスの概念が古くなる。
新たな店を開拓したり、他の店舗のサービスや味を体験するのもいいことだ。
「おう、どこかランチ食べに行くか? この間、クリーニング屋の隣にオープンしたイタリアンとか?」
「それがさ、今日はカレーの気分なの」
家内が嬉々として、スマホの画面をこちらに向けた。
カレー? それはまたエラく庶民的な……
サービス向上の助けや、味の研究にはならんだろう?
そう思いながら、まだ焦点が定まらぬ寝ぼけマナコでスマホの画面を見た。
! ! !
そこに写し出された画像、皇室御用達の老舗一流リゾートホテルの写真であった。
「お前、ここ箱根だぞ! 今から行ったってランチタイムに間に合わないだろ? それに高級リゾートにランチタイムってあるのか?」
「へへへ〜。ここのホテルのダイニングは休憩時間がありませ〜ん。今から行っても大丈夫」
大丈夫ったって、これから2〜3時間運転してカレーを食べに行くだけって、どんな休日の使い方だよ?
私がOKしたとみなして、家内はいそいそ準備を始めた。
そもそも、恐れ多くも上皇陛下が皇太子殿下の頃から愛しているカレーだぞ。
庶民の身分で行っていいのだろうか?
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