第十一話

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 こんな場面はエガオが笑う時にはない。  少なくても今回、映画化された部分の原作にはない。  つまりこれは……。 (映画版のオリジナル……)  二人は、じっとお互いを見つめ合う。  言葉はない。  映像と、そこから醸し出される雰囲気と、優しく、心の奥の琴線を熱くさせるような挿入歌が流れるだけ。  挿入歌を歌ってるのはエガオの声優。  そして歌の歌詞が耳から頭を撫でるように伝わってくる。   "これが愛だと貴方が教えてくれた……"    エガオとカゲロウの顔がゆっくりと近づき、お互いの唇が触れ合う。  観客から悲鳴のような歓声が上がる。  オミオツケさんも思わず息を飲む。  レンレンも思わず声をあげそうになったのか、彼の口を押さえる手のひらが唇で擽られる。  オミオツケさんは、くすぐったくて思わずレンレンの唇から手を離す。  レンレンの穏やかな目がオミオツケさんを見る。  オミオツケさんの熱に濡れた冷めた目でレンレンを見る。  二人は何も言わない。  愛を語らう挿入歌と観客たちの冷めやらぬ歓声と悲鳴が劇場を波のように広がる。  どちらかかは分からない。
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