第十二話

1/9
前へ
/174ページ
次へ

第十二話

 映画が終わった後、二人は目を合わせることが出来なかった。  劇場から出た後も、映画館を出た後も、コラボカフェに向かって歩いてる最中も顔を上げることすら出来なかった。  二人を見た周りの人達はきっと親しい人を見送った葬儀の帰りに見えたことだろう。  オミオツケさんは、肩から下げたポシェットの紐をギュッと握る。 (なんであんなことしちゃったんだろう……)  オミオツケさんは、何度も自問自答するも答えはまるで見えない。  映画の雰囲気に飲まれたから?  急に手を握られたから。  それとも……。  オミオツケさんは、隣を歩くレンレンをチラリと見上げる。  レンレンは、自分のように俯いてはおらず、真っ直ぐに前を向いていた。しかし、いつも和やかな笑みを浮かべている顔はどこか固く、緊張した様子が伺えた。  オミオツケさんは、じっと彼の顔を見る。 (この人が……とてもカッコよく見えたから……?)  オミオツケさんの脳裏に浮かぶのは厨房でみそ汁作りをするレンレンの姿。自分のために懸命に考え、作業する彼の姿……。  その姿を見てオミオツケさんは思ってしまったのだ。  カッコいい、と。 (なんで……)
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加